【本】「達意の文章」を書くテクニック

『日本語作文術』野内良三 中公新書

メールや企画書、報告書等々、別に作家やライターでなくとも仕事をしていれば文章を書く機会はけっこうあるものですが、そのための技術を学ぶ機会はあまり用意されていません。で、書くことを仕事にしている関係で「どう書けばいいか?」と聞かれることがよくあります。最近、そんなときにお勧めしているのが『日本語作文術』です。

本書は実用文の書き方に的を絞っています。

<私の狙いは相手をうならせるような「うまい」文章を書くことではない。自分の考えが「まっすぐに」読み手に届く文章だ。そう「達意の文章」である。達意とは、「意を達すること」、言わんとする内容を十分に相手に分からせることだ。>(P2)

言語学部の教授である著者はそのために「とりあえず日本語を外国語として捉え返してみる」方針を採用し、実用文のノウハウを整理していきます。

本書で提示されているノウハウには文の並べ方や短文の推奨、読点の打ち方など、この手の本の定番項目がたくさん含まれていますが、ヨーロッパ語との比較から解説がなされているという特徴があり、それがわかりやすさや説得力につながっています。

文章指南では否定されがちな定型表現を推奨している点も本書の特徴です。曰く、「パッチワーク的作文術」。文章になにか神秘性やら創造性を求める向きには嫌われそうですが、少なくとも一般のビジネスマンなら創造性にこだわって筆が止まるより、さっさと定型表現を使ってアウトプットを出していったほうがよいはずです。

本書のなかでとくに「これは使える!」と思ったのは、抽象的=観念的内容の文章を書くノウハウが提示されている点です。この部分は普段、経験的に頭の中でやっていた作業をきちんと説明してもらった感じ。

日本語の特質には次の三点があると著者は言います。

〔1〕発話環境依存的である
〔2〕統語的に単純である
〔3〕主観的である

この三つの特質のせいで日本語は抽象的=観念的内容を表現するのには不向きで、具体的=感覚的な描写や個人的な感情の表出が得意です。逆に、この三つの特質をうまく操作すれば、日本語でも抽象的=観念的内容を表現できる!

この論理に基づいて、名詞中心文と動詞中心文の双方向的な書き換えの仕方を展開し、硬い内容を表現する方法論を提示しているところは一読の価値があると思います。

日本語作文術 (中公新書)日本語作文術 (中公新書)
著者:野内 良三
中央公論新社(2010-05-25)
おすすめ度:4.0
販売元:Amazon.co.jp
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