(写真出典:内閣府HP)
3月15日、労働政策研究・研修機構とフランス国立社会科学高等研究院/日仏財団共催のワークショップが開催されました。題して「働き方改革・生産性向上・well-being at work ――日仏比較・労使の視点から――」。
日仏の研究者による基調講演とパネルディスカッションが行われたこのワークショップは、同時通訳の難しさはありつつも紹介された研究はどれも興味深いものでした。各講演のレジュメはこちらのURLにアップされているので興味のある人はどうぞ(PDF)。
で、このワークショップの中でフランス国立社会科学高等研究院/日仏財団のセバスチャン・ルシュバリエ理事長が面白い問題提起を行っていました。
「日本は失業率が低く、生産性も低いがフランスは失業率が高く、生産性は低くない」
上記のルシュバリエ理事長講演レジュメの図1を見ると、日本とフランスの失業率には大きな開きがあるとともに、それがGDP成長率の違いに起因するものではないことがわかります。一方、労働時間1時間当たりのGDP(名目ドル)は日本が41.9なのに対し、フランスは65.6、米国は68.3でした。
失業率という観点から見て日本の労働市場のパフォーマンスはフランスよりも優れている反面、労働者の生産性ではフランスに劣っているのです。なぜこんなパラドックスが発生するのか。
その要因としてはいくつかの仮説が考えられますが(ルシュバリエ理事長講演レジュメに記載があります)、講演で焦点を当てられたのは両国の働き方の違いです。多くの研究は労働者の幸福と生産性の間には正の関係があることを示していますが、仕事満足度をみると「不平不満の多い」フランスの労働者が68.6%であるのに対し日本は46.1%で、日本の労働者の満足度は非常に低いのです。
日仏の働き方の違いの例として挙げられていたのが休憩時間で、一部のフランス企業では午後の生産性低下が見られるため最低1時間の昼休みを取らせたり、勤務時間中に複数回の休憩の導入が試みたりされているそうです。もともと週35時間労働、長期バカンスの国と知られているフランスですが、それはサボりではなく生産性向上という目的があるようです。
ルシュバリエ理事長は、日本企業は賃金抑制と正規・非正規労働者の差別化による労働コストの圧縮と、労働生産性の向上へ同時に取り組んできたが、これまでのところ前者には予想以上に成功したが後者には失敗し、安倍首相が打ち出した働き方改革はこの問題を解決するための前向きな取り組みであると位置づけました。
日本の働き方改革の現状は労働時間の削減に焦点が当たりがちですが、そうではなくウェルビーイング(個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること)の観点から考える必要性はもっと認識されるべきなのでしょう。
また、パネルディスカッションで日本の生産性の低さについて慶応大学の山本勲教授は、米国はルーティンタスクを減らすためにITを活用したのに対し日本は非正規雇用者が同様の業務をやっているために生産性が低くなっている可能性を指摘しました。
確かに、日本の非正規雇用者の人件費の安さ故に、生産性の低いルーティンワークを人がやっているような状況は思い当たる節があります。で、この話はフランスの高い失業率と対を成しています。フランスでは生産性の低い労働者は労働市場から排除されるので、失業率が高くなるというわけです。
以上を踏まえるといかに労働時間を短くするだけでなく働き手のウェルビーイングと生産性を高めつつ、低い失業率を維持していくかが日本の働き方改革における重要な課題になると思います。要は失業率と生産性をトレードオフにしてはいかんよね、と。
参考記事:日経新聞 フランスに学ぶ働き方改革 時短、生産性向上に寄与 S・ルシュバリエ 仏社会科学高等研究院教授 (有料記事)
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