NGT48山口真帆さんの事件でなぜAKSは判断を間違い続けるのか、お金の流れから考えてみるよ

 NGT48山口真帆さんの事件は、被害者であるはずの山口さんと彼女を支えた長谷川玲奈さん、菅原りこさんの“卒業”という形で運営主体であるAKSは幕引きを図ろうとしているが、世の中から多くの反発を買い、まったく表に出てこない秋元康氏も批判の的になっている。なぜAKSはこれほど判断を間違え続けるのだろうか。正否はともかく、以前のAKB48グループでファンがらみの問題が発生した時とは異なる判断をするのも気になっている。

AKSの判断基準や行動様式が変わるような何かがあったのだろうか。AKS周辺のお金の動きから何か手掛かりはないかと調べてみると、やはり興味深いのはAKSと、SKE48を売却したKeyHolder、その親会社であるJトラスト、AKS吉成夏子社長が第三者割当増資を引き受けたケイブとの関係性である。ケイブについてはTwitterに書いたが、全部まとめるには文字数制限のあるTwitterは向いていないのでブログに記しておこう。

Jトラストについて

 Jトラストの源流は1977年に大阪で設立された(株)一光商事である。中小企業や個人事業主向けの金融事業を手掛ける会社で、1998年に大証二部上場している。

 90年代のバブル崩壊後は銀行の貸し渋りによって資金繰りが悪化した中小・零細企業が増えて事業者金融、いわゆる商工ローンが伸びた時期である。だが、商工ローンは高金利と「腎臓や目ん玉売って金作れ」と債務者に迫る苛烈な取り立てで自殺者を生み、社会問題化した。日栄と商工ファンドが有名だったがイッコーも例外ではなく、やはり苛烈な取り立てで自殺者を出している。

 参考:金融庁 「貸金業制度等に関する懇談会」(第6回会合)の開催について
  (商工ローン利用者・関係者 提出資料) 資料6-1-3

 その後、過払い返還請求や貸金業法の改正による経営環境の悪化で業績が低迷したイッコーは全国保証株式会社の傘下を経て2008年、ライブドア不動産社長やライブドアクレジット社長などを務めた藤澤信義氏が個人でTOB(株式公開買付)を実施し、買収された。

 イッコーは翌年Jトラストに社名変更。2009年に日栄から社名変更したロプロが会社更生法を申請した際のスポンサーとなり、更生手続き終了後に傘下へ。同様に会社更生法を申請した消費者金融大手の武富士のスポンサーとなりサラ金事業の譲渡を受けるなど、業績の悪化した消費者金融会社などを安値で買収し再生する手法で急激に規模を拡大した。ちなみに藤澤社長がイッコーをTOBした際の買い付け株価は43円/1株。過払い返還請求なんて地雷のある会社を買いたい奴はいない。そのリスクを負う分、格安になるのだ。まさに剛腕経営者である。

 また、藤澤社長はJトラストとは別にライブドアクレジットの流れをくむネオラインホールディングスという会社を経営しており、こちらでも三和ファイナンス等の消費者金融会社を買収している。事業再生の手法は、「消費者ローン事業はいったん貸し付けを止めると、利息と元金の回収で巨額のキャッシュが戻ってくる」と藤澤社長自身は語っている(日経ビジネス2011年12月16日 「渦中のひと」)。

ただし、過払い金を請求する側の司法書士はこう書いている。

「業績の悪化した貸金業者」にも、わずかながらも「貸付金」があります。その「貸付金」をきっちりと回収して、過払い金を返さなければ、「業績の悪化した貸金業者」を買い取っても自分の会社の利益になります。

 出典 辻守司法書士事務所 ネオラインとJトラストとフジサワ!?

 Jトラストは2013年に韓国で破綻した貯蓄銀行、2014年にインドネシアの商業銀行を買収する一方、2015年に国内の消費者金融からは撤退し、現在は事業の軸足をアジア諸国に移している。藤澤社長の剛腕によって営業収益762億円に急成長を遂げたJトラストだが最近の業績は三期連続で当期利益が赤字であり、この5月発表予定の2019年3月期決算は海外で不良債権処理を実施するため当期利益マイナス363億円という赤字予想を出している。

KeyHolderについて

 KeyHolderはもともと1967年設立のシグマというメダルゲームを運営していた会社である。その後パチンコのアルゼ(現ユニバーサルエンターテイメント)傘下となりアドアーズに社名変更し、2012年にJトラストグループの一員になった。その頃はアミューズメント施設の運営等を手掛けていたが2017年に持ち株会社体制へ移行し社名もKeyHolderに変更。現在はM&Aで獲得したテレビ制作会社や旧スタジオアルタのKeyStudio等を傘下に持つ一方、旧アドアーズの事業は売却している。

 なぜサラ金を買収しまくったJトラストがアミューズメント会社を、という気もするが、藤澤社長は30歳までゲームセンターで働いていて、土地勘があったようだ。

 さて、KeyHolderは2018年6月18日、秋元康氏を特別顧問に招聘するとともに秋元康氏の実弟とも報じられる秋元伸介氏が社長を務めるY&N Brothersと業務提携契約を締結すると発表した。同時に秋元康氏、秋元伸介氏他一名にKeyHolderの新株予約権が割り当てられたのだが、これが「奴隷契約書もどき」「罰ゲーム」と呼ばれる代物であった。

 このmahosannisachiare 氏の一連の投稿は秋元康氏の新株予約権について詳細に分析しており、興味のある人は必読である。こちらのtogetterのほうが全スレッドを見やすいかもしれない。

 新株予約権を簡単に説明すると、それを発行した会社に対して権利を行使することによって、その会社の株をゲットできる権利のこと。権利を行使できる行使価格と期間、行使条件は定められており、株価が行使価格を上回った際に権利を行使すれば差額分が儲けになる。ストックオプションはこれを社員や取締役などに付与するもので、要は新株予約権を付与することで頑張って株価が上がれば儲かるという動機づけに用いるのだ。うまくいかず株価が上昇しなかった場合は、権利を行使しなくてもよいというのが一般的である。

 ところが秋元康氏に付与された新株予約権は行使条件の厳しさと、株価が一定価格を下回った時に権利行使が義務付けられている点が独特である。詳しくは上記ツイートに記載されているが、ポイントを次にまとめておく。

新株予約権の割当数
 秋元康氏 250666個(約2506万株に相当)
 秋元伸介氏 55703個(約557万株に相当)
 赤塚善洋氏 13925個(約139万株に相当)
権利行使価額 1株当たり125円
権利行使期間 2018年7月24日~2028年7月23日
行使条件 株価終値が150円を5日連続で上回ると30%、株価終値が200円を上回ると60%、株価終値が260円を上回ると100%を上限として権利行使できる。ただし株価終値が一度でも62.5円を下回るとすべての新株予約権を行使しなければならない。

 株価が上昇した場合の行使条件が細かく制限されている上に、株価が62.5円を割ったら倍額の125円で権利行使しなければならないという罰ゲーム付きである。単純計算すると罰ゲームが発動された場合、秋元康氏は約31億円を払い込まねばならず約15.6億円の含み損が発生することになる。

 KeyHolder側からすると事業にコミットさせるメリットがあるかもしれないが、特別顧問として遇される側のはずの秋元康氏はなぜこんな条件を飲んだのだろうか。お金周りのブレーンは当然いるとすれば、飲まざるを得ない何かがあったのだろうか。

 なお、KeyHolder株価は秋元康氏のニュースで急騰。短期間で発表前の134円から194円まで44%上昇したが、その後は低迷している。また、秋元康氏の件の発表前にヤフー掲示板に内容を漏らす書き込みがなされ、KeyHolderが否定するというきな臭い動きもあった(冒頭のチャート画像参照)。

AKSとKeyHolderへのSKE48売却

 AKB48グループを運営する株式会社AKSが創設メンバーである秋元康氏らの頭文字を取って名付けられたと巷間言われているが、現在はパチンコの京楽出身の吉成夏子氏が社長を務め、かつ100%株式を保有していることがNGT48の第三者委員会報告書に記されている。ただ、吉成社長がどうやってAKSを手に入れたのかの経緯は明らかではない。なお、AKSの会社概要では秋元康氏はプロデューサーとして記載があるほか、主要取引先として秋元康事務所が記載されている。

 秋元康氏がKeyHolderの特別顧問に就任してから5か月後の18年11月13日、AKSからSKE48事業を承継することで合意したと発表した。買収金額は30億円で現金一括払い。SKE48の業績は下記の通りで、資産面からも利益面からも割高の感は否めない。

 (出典 KeyHolder (経過事項)株式会社AKSとSKE48事業における事業譲渡契約の締結及び新規事業の開始に関するお知らせ

  そして後に吉成夏子氏も秋元康氏と同様、KeyHolderの罰ゲーム付き新株予約権を保有していることが明らかになった。

 

 上記ツイート通り、権利行使条件が厳しく株価が半額になった際の強制行使条件があるのは秋元康氏と同様だが、権利行使期間が平成33年(2021年)7月13日までと短いのが違いである。権利行使できるよう株価を上げるため、そして65円以下に下がって強制執行条件が発動しないよう吉成夏子氏は秋元康氏と同様、keyHolderのために働かなければならなくなった。なぜこんな条件を飲んだのかはやはり秋元氏と同様、謎である。

 なおSKE48買収発表時、KeyHolderの株価は前日の133円から151円に急騰したものの圧倒的な売り物に押されて127円で引けた。この日の出来高は約3100万株という不自然というか突出した多さであった。

KeyHolderとケイブ、AKS吉成夏子社長との関係

 一方、KeyHolderがSKE48の買収を進める一方で18年12月11日、ゲーム会社のケイブはKeyHolderと資本業務提携を行い、同社に対し第三者割当による新株を発行することを発表した。発行株数は76万株、株価は591円で総額は約4.5億円。これでKeyHolderはケイブの持株比率19.63%を占める筆頭株主となった。業務提携の内容はネットクレーンゲーム事業の運営サポート、新規スマートフォンネイティブゲームのアプリ開発、eスポーツ展開における運営サポートである。

 出典 ケイブ:株式会社KeyHolderとの資本業務提携、第三者割当による新株式の発行並びに主要株主及び主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ

 ただし、ケイブという上場企業の筆頭株主に躍り出るにも関わらず、なぜかKeyHolderのウェブサイトには本件のリリースが見当たらない。

 さらに19年3月、ケイブはAKS社長である吉成夏子氏個人と岡本吉起氏を割当先とする140万株、総額10.27億円第三者割当増資を行った。吉成社長の割当分は110万株、払込資金8億740万円で、うち8億円はAKSからの融資でまかなう、と。AKSから吉成夏子社長への8億円融資は無担保で、返済期日は2029年2月28日、年利2%。

 また、同時にケイブはAKSの秋田英好監査役にも50万株の新株予約権を割当てるが、秋田監査役の払込資金3億7750万円のうち3億円はAKSからの融資でまかなう。こちらも無担保で、AKSから合計11億円の無担保融資が行われる

 吉成夏子AKS 社長が引き受けたケイブの第三者割当増資の新株式発行価格は734円。払込期日は4月26日。同日のケイブ株価は870円だったので、単純計算すると約1.5億円を一瞬で儲けることになる、自己資金を殆ど使わずに。ただし吉成社長は1年以上の長期保有の方針とされ、秋田監査役はケイブの取締役に就任する。

 ケイブは二期連続赤字の会社で、吉成夏子AKS社長への第三者増資割当は資金調達と共にヒットタイトルを生み出すために必要なプロモーション展開への協力が期待されてのことだとされる。以上の内容はケイブの有価証券届出書による。

 700円台で推移していたケイブの株価は吉成夏子AKS 社長への第三者割当増資を受け急騰。一時は1391円まで上昇したが、ここで不可解なことが起こった。ケイブと資本業務提携を行ったばかりのKeyHolderがケイブ株を売り出したのである。4月18日にKeyHolderが提出した変更報告書によると市場でケイブ株を売り払った結果、保有株数は16万8000株まで減少し、保有割合も4.34%まで縮小し筆頭株主ではなくなっている。

 要するに、KeyHolderは4か月前に591円で仕込んだケイブ株を、AKS社長である吉成夏子氏のニュースで株価が噴きあがったタイミングで59.2万株売り抜けていた。実に良い投資であるが、吉成社長はKeyHolder新株予約権を保有する関係にあることを含め、違和感は残る。もちろん上場企業だから法的な諸々はクリアしているのだろうけれど、きっと。また、わざわざ会社から借入して吉成夏子社長がAKSではなく個人でケイブに資金を入れたのも不可思議である。

AKSはなぜ山口真帆さんの事件への対応を誤ったのか

 以上の内容と山口真帆さんの事件を時系列でまとめると次のようになり、巨額の資金が動く一連のディールと事件が重なっていることがわかる。

20186月18日秋元康氏、KeyHolder特別顧問就任と新株予約権割当て
 11月13日KeyHolder、AKSとSKE48事業承継に向けた基本合意書締結
 11月13日Jトラスト藤澤社長のKeyHolder新株予約権を吉成AKS社長に譲渡する契約締結
 12月8日山口真帆氏、自宅で暴行被害
 12月9日暴行被疑者逮捕
 12月11日ケイブ、KeyHolderと資本業務提携
 12月27日KeyHolder、AKSとSKE48事業の譲渡契約締結、
 12月28日暴行被疑者、不起訴処分
20191月8日山口真帆氏、SHOWROOMで事件について発信
 1月9日山口真帆氏、Twitterで事件とNGT48の対応について告発
 1月14日AKS、今村NGT48支配人退任と第三者委員会設置を表明
 3月1日吉成夏子氏、KeyHolder新株予約権の決済完了
 3月14日ケイブ、吉成夏子氏他に第三者割当増資の発表
 3月21日AKS第三者委員会調査報告書公表

 なぜ山口真帆さんの事件でAKSは判断を間違え続けたのかという当初の問いに戻ると、初動で十分なリソースを割けられなかった可能性や、一連のディールを止めたくないので事件を表沙汰にしない、早期の幕引きを図りたいといった誘因が働いた可能性が考えられよう。

 次に、AKBプロデューサーの秋元康氏と吉成夏子AKS社長はKeyHolderの罰ゲーム付き新株予約権を大量に保有しており、株価下落を避けたいという誘因を持つ。これも事件を強引に幕引きしようとする力として働いた可能性がある。

 ちなみに罰ゲーム付き新株予約権が実際に発動したケースはKeyHolderの親会社、Jトラストで今年2月に発生している。Jトラストでは2016年9月、取締役9名や監査役3名、従業員14名等に合計282万株の新株予約権を発行した。これは2021年9月30日までに株価が行使価額789円の半額を下回ったら、新株予約権をすべて789円で行使しなければならないという罰ゲーム付きであった。

 実際に今年2月8日、Jトラストの株価が394円となり半額を下回ったので、新株予約権の割当を受けた者は1か月以内に789円で引き受けなければならなくなった。これによりJトラストは約22億円の資金を得る一方、割当を受けた者は合計で約11億円の含み損を抱えることになった。

 出典 Jトラスト 業績予想の修正、営業費用の計上、配当予想の修正、役員報酬の支給の取り止め・減額、及び募集新株予約権(有償ストック・オプション)の行使に関するお知らせ

 Jトラストが2016年から罰ゲーム付き新株予約権を取締役や社員向けに導入していたところを見ると、KeyHolderの罰ゲーム付き新株予約権はこれを踏襲したものなのだろう。その意味では秋元康氏と吉成夏子社長はJトラストに絡めとられたようにも見える。破綻した商工ローンやサラ金を買い取って急拡大したやり手の会社に、である。

 そして何よりAKSは新株予約権やら第三者割当増資やらには熱心に取り組んでいるのに、AKB48グループの運営にはあまり熱心ではないように見える。もしかすると中の人たちはマネーゲームの材料としてのAKB48グループには関心があっても、アイドルグループ事業の運営そのものには意欲や情熱を失っている可能性がある。

 残念ではあるがそう考えると、AKB48グループの価値の源泉であるメンバーを守らないという謎行動の説明がついてしまうのである。

 

 

1 個のコメント

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

    このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください