「都バス運転手の給与を下げよ」というけど既に下がっているようだしそれでは誰も幸せにならないよ、という話

 

 都バス運転手の給与が高すぎる、民間並みに落とせ、民営化せよというツイートが炎上した案件、発言主の渡邉正裕氏はマイニュースジャパンの編集長なのですね。同サイトでは積極的に労働災害などを取り上げている印象があったので、ちょっと意外でした。

 そもそもツイートの根拠になっている記事は2012年に書かれたもので、この間の変化を踏まえれば現状認識としてもちょっと古いですし、それに基づいて簡単に他者の給与を削れ、民営化せよという主張はかなり粗雑です。そもそも都バスを運営している東京都交通局は独立採算制で、全体として黒字経営です。

 ただ後述するように興味深い案件だなと思い、まずは事実関係ということで現在の都バス運転手の平均年収をググったところ、直接のデータは見当たりませんでした。が、東京都交通局の決算に事業別収支と人件費が掲載されていました。それらを表にしてみると以下のようになります。

東京都交通局 自動車運送事業(都バス)    
  平成26年度 平成27年度 平成28年度 平成29年度
事業収入(百万円) 36387 36870 40900 41512
営業損益(百万円) -1539 -1137 -1289 -636
経常損益(百万円) -594 -739 -51 822
純損益(百万円) -1959 -717 1996 1336
人件費(百万円) 24539 24442 25531 25772
人件費率(%) 67.4 66.3 62.4 62.1

(出典:東京都交通局決算

 平成26年度(2014年度)の都バス事業は純損益が約20億円の赤字でしたが、徐々に赤字を減らし平成29年度(2017年度)はまだ営業損益が赤字であるものの経常損益、純損益は黒字となっています。黒字化は事業収入の増加とともに、事業収入に占める人件費の割合を削ってきたことが大きな要因です。

 表にまとめた通り、事業収入に占める人件費率は平成26年度の67.4%から3年間で62.1%へと5.3ポイント減少しています。金額としてはやや増加していますが人件費率は大きく削られており、全体として運転手の給与は抑えられています。

 民間はどの程度かというと、バス大手の神奈川中央交通の有価証券報告書から一般旅客自動車運送事業(バス事業等)の数字を抜き出して計算すると、事業売上高に占める人件費率は62%台で推移しています。つまり、都バスの人件費率は民間並みの水準になっています。ちなみに神奈中の平均給与は単体で537万円、従業員平均年齢は49.3歳です。

神奈川中央交通(連結) 一般旅客自動車運送事業    
  平成26年度 平成27年度 平成28年度 平成29年度
売上高 58643 59479 59559 59474
営業利益 2397 3168 3059 2687
人件費 36912 37370 37203 37154
人件費率 62.9 62.8 62.5 62.5

 渡邉氏は高すぎる都バス運転手の給与をカットせよと主張しましたが、人件費率で見るとすでに運転手の給与は抑えられており、的外れな主張と言えます。まあ、そもそも736万円が「異常な高賃金」と言えるか疑問でもあります。

 一方で都バスの乗車人員、つまり乗客は平成26年度の2億1350万人から平成29年度は2億3121万人へと1771万人増加しています。率にして8.3%。仕事が増えているのに人件費を削ってきたのですから、現場の負担は増加していると考えられます。仕事の負担が増え、給与が抑えられれば職の魅力は低下し、人員確保が困難になったり職場のモラルが荒廃したりする恐れがあります。

 実際、世の中の人手不足はバス運転手も例外ではありません。国土交通省が平成26年に作成した「バス運転者を巡る現状について」という資料によると、バス運転手に必要な大型二種免許保有者は年々減少しており、平成25年は平成13年に比べ15%減少し、特に59歳以下の保有者は同期間で28%も減少しています。比較的若い人が流入していないのです。

 で、年収の推移を見てみると、平成13年当時は年齢とともに年収が右肩上がりとなっていましたが、平成25年は各世代で年収が減少し、とくに50歳代の落ち込みが激しくなっています。免許が必要で人命を預かる責任の重い仕事で待遇が悪いとなれば、そりゃなり手は減るでしょう。

(出典:国土交通省「バス運転者を巡る現状について」)

 ちなみに1年離職率は29%、4年で48%。離職率の高さを見ると、職場のモラル低下も懸念されます。

 業績が悪化した会社や事業体がリストラを行い、黒字化を図るのは常道です。そうしなければ会社がつぶれてしまいますから。

 しかしそうした状態が長期間続くと、いろいろ不都合が生じます。90年代の金融危機あたりから長年にわたり政府も企業も人件費を含むコストを削り続けてきた結果、人材が足りなくなったりインフラがボロボロになったりといろいろな資源が劣化し、苦境に陥っているのが日本の現状です。

 渡邉氏のツイートの元ネタの記事は2012年。あの頃はまだリストラが進められた企業に対し公的機関の処遇が良く、民間は苦労しているのにあいつらは良い目を見ていると叩くと受けたのかもしれません。もともと公務員叩きは受けやすい傾向があります。

 これは私の想像ですが、渡邉氏のツイートは民間に比べ高給をとっている都バス運転手を叩けば受ける、という2012年頃の感覚で行われたように感じます。元にしている記事がそのような内容ですし。

 でも世の中の人たちの認識が長年にわたりいろいろな費用を削り過ぎたため、各所で不都合が生じているのだと変化した結果、都バス運転手の給与を下げろという主張は炎上したのではないか。仮に都バス運転手の給与が民間より良かったとしても、何の不都合があるのか。むしろ民間の給与を上げるべきというわけです。

 都バスツイートの炎上は世の中の人々の認識の変化を示し、コストを削り過ぎて劣化した諸々をなんとかしないといけない、という問題意識の現れであるかもしれず、だとすれば従来とは逆にいろいろなものに必要なお金をかけていくべきという方向に今後は動いていくのかもしれません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください