そうだったのか! 池上彰が好まれる理由

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http://www.tv-tokyo.co.jp/contents/newtitle/81683.html

3.11以降の震災報道で各局で引っ張りだこだった池上彰氏は、「新入社員の理想の上司」でも一位になり、老若男女問わず幅広い人気を集めている。

「わかりやすい解説」というキーワードで語られることの多い池上氏だが、それだけが人気の秘密ではないだろう。やはり単なる解説の能力だけではない、多くの人を惹きつける何かがあるのだと思う。そんな問題意識を持ちながら、氏のベストセラー『伝える力』 (PHPビジネス新書)を読んでみた。ちなみに私の持っている版は51刷!

本書は「話す、書く、聞く」コミュニケーションを効果的に行うコツをさまざまな実体験を交えながら語った内容で、挙げられているノウハウは比較的ベーシックなものである。池上さんはそれらの基本的な事柄を徹底してやっていることが伝わってくる。

で、魅力という観点から本書で私が面白いと感じたのは、池上さんの持つ「毒」がにじみ出ているところだった。たとえば人の引き付けるには期待を裏切ることだとして、自身が仲人を行ったときのあいさつを紹介しているくだりがある。

 私とラジオの番組を一緒に担当している女性アナウンサーが結婚し、披露パーティーで挨拶を頼まれたときのこと。お相手の男性も、ラジオのパーソナリティーでした。そこで私は、こう言いました。
「新婦と初めて会ったとき、ラジオのアナウンサーで顔は聴取者に見えないのに、なんて美人なんだろうと思ったのですが、きょう新郎に初めてお会いして、なるほど、ラジオ向きだなあと思いました」


また、好感度には陰口を言わないことが大切として、こんなエピソードをあげている。

たとえば何人かが集まって話をしているとします。そのとき、誰か一人がトイレに立った。すると、話題がその人のことになって、場合によっては、悪口を言ったりします。
そうした場合、私は話題の主が戻ってきたときに、「実は今、おまえがいない間に、おまえの悪口を話していたんだぞ」とわざと暴露します。


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そういえば、池上さんと共演した爆笑問題・田中がラジオでこんなことを暴露してもいた。

「最近ね、子供連れがグリーン車に乗ってくるでしょ。あそこはね、静寂を買う場所なんですよ。それなのにガキがうるさくて!」と言っていた。
http://byebyeblack.blog60.fc2.com/blog-entry-124.html


しかし、池上さんの毒は視聴者の不快感にはつながらず、人を引き付ける魅力となっている。その理由の一つは毒の活かし方を池上さんが心得ているからだろう。上記の仲人の例にしても、「こうやると失敗する」という線引きが提示されていて、場面に応じて毒の制御をしていることがわかる。

池上さんの毒が魅力となる別の理由は、単なる話のスパイスではなくて記者としての気骨の同一線上にあるからだと思う。総選挙の特番で、創価学会や日教組を取り上げたのはその例だろう。私が強く印象に残っているのは、テレビ東京で大江麻理子アナとやっていた震災特番である。

この番組でボランティア担当首相補佐官の辻本清美氏と避難所の女性を中継でつないで対峙させるという企画をおこなっていたとき、避難所の女性が他の被災者仲間の声としてこんなことを話し始めた。

私たちは奇跡的に助かったが、全然先の見えない生活をする中で、もしかすると津波に流されて終わったほうがよかったんじゃないか、という声が聞こえました。


この話は局側にとって想定外の重さだったと思われる。画面に緊迫した空気が流れるなか、辻元氏は国はきちんと対応しておりこれからも頑張っていくという自分側の話に終始し、被災者の先の見えない不安には向き合わなかった。しかし池上氏は少々トーンの上がった声で、言葉がほとばしるかのように被災者へ熱く語りかけた。

他の方の気持ちはわかりますが、いっそのこと津波に流されてしまえばなんてことを言ったら…。そのとき流された人の分まで、皆さん生きていかなければいけないんですからね。その人たちの分まで、みなさんしっかり生きて下さい。みんなで皆さんのことを見ていますから。これからも助け合って下さい。みんなで援助していきますから。


つられるように大江アナも全力でこう付け加えた。

日本中が、世界中が応援しています。

この場面で見せた池上氏の即応力は、ただのテクニックではなく、被災者の側に寄り添うというスタンスの結果として出てきた態度である。市民活動家あがりで本来、被災者側にいるべきはずの辻元氏の役人然とした言葉との違いは、それを際だたせた。弱い側の立場に立ち、力のある者をチェックするという記者の気骨。それが普段の毒吐きにもこうした場面での即応力にもつながっている。

その意味で、池上さんの好感度は毒物ゆえなのだ。

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