話にオチをつけるには?

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オチの構造はどうなっているか?

スピーチしたり文章を書いたりするとき、誰でも「オチのつけ方」には苦労していると思います。この大問題をクリアし、人々の口の端に乗り続けてきたのが世界各地に伝わる小咄です。ただ、よく見かける小咄集やジョーク集の類は国別やテーマ別に小咄が並んでいるだけなので、内容が面白くてもそのまま応用するというわけにはいきません。

その点、『必笑小咄のテクニック』(集英社新書)は小咄を方法で分類し笑いを導く構造を明らかにした本なので、話にオチをつけるための方法論を学ぶにはもってこいの一冊です。著者は著名なロシア語通訳者で、作家、エッセイストとしても活躍した故・米原万里氏。

米原氏は傑作小咄のやり口は詐欺の手口とそっくりであると指摘し、小咄をつくるには意表を突くような仕掛けの用意が必要と説きます。

詐欺の目的が金品を巻き上げることであるように、小咄の目的は笑いを取ること。笑わせるためには、オチは思いがけないほどいい。予測される展開と実際の顛末との落差こそがオチなのだ。(中略)
だからオチを思いがけないものにするために費やす知力とエネルギーを惜しんではならない。オチそのものの思いがけなさもさることながら、名作の贋作を売りつける詐欺師が額縁に金を惜しみなく費やすように、聞き手や読み手が頭の中にオチとは異なる展開を思い描くようミスリードしなければならない。

つまり、オチをつけるには読者の予想する展開と、話の着地点との間に落差を意識的に生じさせることが必要である、というわけです。読者を常識的な文脈にのせて、最後にいい意味で期待を裏切るのだ、といってもよいでしょう。本書では落差を生じさせるためのテクニックが全12章にわたって展開されていきます。その詳細については実際に読んでいただくとして、全てにわたり基本的な姿勢となるのが「オチはゼロから創造するというよりも、見いだして演出するものなのである」という姿勢です。

どうやってオチを見出し、演出するか

たとえば、次の文章の情報提供の順番を修正することによって小咄をつくれ、という例題が出されています。

当館の訪問者数はあまりにも少ない。世界的にも希有な歴史的遺構や遺物を数多く展示しているというのにもったいないことです。

皆さんならどんな文章をつくるでしょうか。
「あくまでサンプル」と断ったうえでの回答例は次の通り。

当博物館は世界的にも大変貴重な、希有ともいえる歴史的遺構や遺物の宝庫である。なかでも最も珍しいのは、訪問者である。

オチとなりそうな要素を抽出し、話の順序を変え、読者の頭に浮かぶ予想との落差を生み出すことで、単なる愚痴話が気の利いたオチのある小咄に変換できることがわかります。これなら誰でも話を面白くできる、かもしれないという勇気を本書は与えてくれます。

また、笑わせるためのオチとは別種のものではあるけれど、本書の締めくくり方にはめったにお目にかかることのできない凄味があります。もし本書を手に取ったら最後まで読み通して、それも合わせて味わってもらいたいと思います。

必笑小咄のテクニック (集英社新書)
必笑小咄のテクニック (集英社新書)

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