【本】『新聞消滅大国アメリカ』鈴木伸元 幻冬舎新書

『新聞消滅大国アメリカ』鈴木伸元 幻冬舎新書

ネットの発達と新聞の凋落はかなり以前から論じられているテーマですが、本書は近年になって「想像を絶する勢いで消滅している」アメリカの新聞業界と、そこに大いなる脅威を与えているインターネットの世界との相克を中心としたレポートです。日本とは市場構造が違うとはいえ、アメリカでは2009年の1年間で46紙も廃刊になるという異常な状況にあり、「パラダイムの転換期にはこういうことが起こるのか」と思わせる生々しい内容になっています。

アメリカの新聞社の危機的な状況を招いている直接的な要因は、広告収入の低迷です。「クラシファイド広告」と呼ばれる三行広告がクレイグズ・リストと呼ばれるサイトに食われると共に(三行広告はアメリカの新聞社にとって大きな収入源であった)、通常紙面の広告も経済危機とネット広告に侵食され低迷しているのです。経済危機から脱しても、後者は元に戻らないと考えられています。ネット広告は出稿効果が見えやすい反面、新聞広告はそうではないからです。

一方、新聞社の記事で広告収入を得ている、グーグルをはじめとするニュースサイトはフリーライダーとの批判を浴びつつも、各新聞社のサイトに大量のアクセスをもたらす機能を果たしており、大いなる敵であり協業者でもあるという複雑な存在です。マードック率いるニューズ・コーポレーションはグーグルとのリンクを断ち切り、記事の課金制に踏み切りましたが、課金制で成功しているのはウォールストリートジャーナルぐらい。

結局、新聞社は広告収入を奪われた上、ネットに活路を見出そうとしても読者との接点はニュースサイトに握られており、にっちもさっちもいかなくなっているわけです。しかし、オバマ大統領が危惧を表明したように、新聞を失うことは社会的な問題を引き起こす可能性があります。新たなジャーナリズムの胎動として調査報道を手がけるNPOのニュースサイトも生まれてきましたが、寄付に依存した経営形態である弱点があります。

こうしたアメリカの実態を踏まえ、新聞の存在意義は社会正義の監視役にあるが、その旗を掲げるだけではもはや生き残れない、と著者は警鐘を鳴らしています。ただし、今後生き残る新聞社経営のあり方の考察まではなされていません。メディアの将来を考える材料をポンと手渡され、後は皆さん考えましょうね、という感じで、この点はレポートが充実しているだけにちょっと食い足りない感があります。

では、私がどう考えるかといえば、機能に経営を最適化する方向に行くしかないだろうと思っています。アメリカのマーケティング学者、レビットがマーケティング近視眼という論文で述べた「アメリカの鉄道会社が衰退したのは、自社を輸送事業ではなく鉄道事業と位置づけたからである」という考え方ですね。つまり、製品中心で事業を考えるのではなく、顧客中心で考えなければならないということです。

「社会正義の監視役」という機能を果たすために紙媒体にこだわる必要はなく、ぐっとコストを抑えてネットで情報を配信し、ある程度のアクセスが集まれば成立するのではないかと。たとえばTech Waveはその方向性ですよね。それ以前に日本の新聞社の場合、書いた記事の質と量に応じて記者の給料を適正化するだけで、経営はかな~り楽になると思いますが、徹底的にはできていません。

となれば、次代のジャーナリズムの担い手は、新聞業界とは別の場所から立ち上がってくるのかもしれません。そもそも官邸から機密費をもらった連中を調査せず、何のペナルティも受けていないという時点で、既存の新聞社は果たして「社会正義の監視役」足り得ていたのか、と根本的な存在意義に疑問符が付けられているところでありますし。

新聞消滅大国アメリカ (幻冬舎新書)新聞消滅大国アメリカ (幻冬舎新書)
著者:鈴木 伸元
販売元:幻冬舎
発売日:2010-05
おすすめ度:4.0
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