【本】『ビジョナリー・カンパニー』ジェームズ・C・コリンズ/ジェリー・I・ポラス

最近、ロングセラーになっているビジネス書をまとめて読む機会がありました。1995年に邦訳版が発売されたこの『ビジョナリー・カンパニー』も長年にわたって版を重ね、私の手元にある本は実に39刷! 今さらレビュー書くような本でもないんですが、せっかく読んだのでまとめておきますよ、と。

ビジョナリー・カンパニーとは業界において卓越し、先見的で大きなインパクトを世界に与え続け、同業他社の間で広く尊敬を集める企業を指します。本書は700社のCEOへのアンケート調査に基づいてビジョナリー・カンパニーを選び出すとともに、設立時期や当時の商品が似ていて、かつアンケートであまり名前が挙がらなかった企業を比較対象にして、ビジョナリー・カンパニーが際だっている要素を追求した本です。

ビジョナリー・カンパニーとして挙げられているのはフォード、ジョンソン&ジョンソン、シティコープ、IBM、ディズニー等々といった具合。ちなみにそれらの比較対象企業はGM、ブリストル・マイヤーズ、チェース・マンハッタン、バローズ、コロンビアです。日本企業では前者にソニー、後者にケンウッドが入っています。この比較はちょっと違和感ありますね。

注意すべきは、比較対象企業は負け犬どころか(執筆時点では)それなりに業績の良い企業です。つまり、本書が追求しているのは「卓越した業績」を残している企業の秘訣ではなく、あくまで企業がビジョナリーであり続ける秘訣です。見方を変えれば、卓越した業績を残していても、ビジョナリーとは限らんということでありますな。

さて、調査の結果得られたビジョナリー・カンパニーの真髄とはどのようなものか。著者たちは次のようにまとめています。

「基本理念を維持しながら、進歩を促す」

この抽象的な要素を実行する具体的な方法は、次の5つのカテゴリーに分類されています。

・社運を賭けた大胆な目標(BHAG)
・カルトのような文化
・大量のものを試して、うまくいったものを残す
・生え抜きの経営陣
・決して満足しない

ビジョナリー・カンパニーの理念にあまり共通する要素はなく、あくまで自分たちの理念に忠実であるか否かが重要です。何らかの判断を下すときには「儲かるか・儲からないか」より、「理念に合っているか・合っていないか」が優先されるわけですね。また、ビジョナリー・カンパニーの理念は必ずしも万人の支持を集めるようなものとも限りません。たとえばビジョナリー・カンパニーに挙げられたフィリップ・モリスの幹部、は「喫煙を支持する理念を断固たる態度で主張してい」ます。

これらを眺めると、自分たちのあり方を明確に示した上で、自分たちらしくあり続けることにビジョナリー・カンパニーの秘訣があるようです。テクノロジーの冒険者は技術のフロンティアを駆けめぐり、顧客への奉仕者は最高のサービスを追求し続けるという具合。つまり、自分自身への要求水準が高いってところにポイントがあるのだと思われます。一方、ビジョナリー・カンパニーでは、ビジネススクールの教えとは異なり「株主価値の最大化」は最大の目標にも原動力にもなっていません。もちろんこれは、株主の利益や収益の追求をおろそかにすることを意味せず、利益をあげながら理念を追求しているということです。

この辺りの本書の指摘が、MBA流の思考に慣れたアメリカの人には新鮮に映り、日本人に受け入れられやすい理由と思われます。確かに、本書の提示しているビジョナリー・カンパニーの要件はわりと納得できるし魅力的でもあります。でも、ビジョナリー・カンパニーに挙げられたソニーは長らく低迷し、IBMは生え抜きではなく外部からやってきた経営者が見事に立て直しました。こうした現実を踏まえるとどう評価したものか。単にソニーは理念を見失い、IBMはガースナーによって理念に立ち返ったという解釈もアリですが。

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則
著者:ジェームズ・C. コリンズ
販売元:日経BP社
発売日:1995-09
おすすめ度:4.5
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