このところずっと職場のうつ病-自殺事例に目を通していて、やはり普通に職業人として生活している人が自殺に至る背景には、一筋縄ではいかないさまざまな問題が起こっているのだなと改めて感じる。そんなところに上原美優が自殺とのニュースがあった。まだ若いだけに近しい人たちの受けた悲しみ大きいだろうなあ。合掌。
気になったのは、このニュースを受け取った人たちのツイッターや2ch等々でみられる反応であった。
絶対に自殺しちゃいけない。
心が弱いから自殺する。
自殺して他の人に迷惑かけるなんて。
この手のコメントがけっこう流れているところをみると、10年以上にわたって毎年3万人以上自殺しているのに、自殺に対する認識はあまり変わっていないのかなと歯がゆい気分になる。
確かに、テレビで「恋愛問題で悩んでいた」とだけ報道されるとそれが原因かと思いそうになるが、基本的に誰かが自殺を選択するという行為の背景には、他者にはうかがいしれない複雑な問題が存在し、自殺時には正常な判断力を失っていると考えたほうがよい。
長年にわたって自殺予防に取り組んできた精神科医は次のように記している。
日本では、自殺は覚悟の行為である」とか、「予防できない」という考えが今でも根強い。しかし、自殺はけっして自由意志に基づいて選択された死ではなく、むしろ、ほとんどの場合、さまざまな問題を抱えた末の「強制された死」であるというのが精神科医としての私の実感である。
「自殺の危険の高い人の大多数は「自分が抱えている問題に対する答えは自殺しかない」といったいわば心理的視野狭窄の状態に追いやられてしまっている。そして、このような状態を引き起こしている最大の原因として、背後に心の病が潜んでいることが非常に多い。
(高橋祥友『自殺予防』岩波新書)
つまり、自殺は本人の意志や心の強弱の問題ではなく、精神的な疾病が背景にある、治療や予防によって解決に取り組むべき問題なのである。
同書には自殺の危険因子を一般の人にもわかるよう噛み砕いた「自殺予防の十箇条」が挙げられているので、これも引用しておこう。
<自殺予防の十箇条>
①うつ病の症状に気をつけよう
②原因不明の身体の不調が長引く
③酒量が増す
④安全や健康が保てない
⑤仕事の負担が急に増える、大きな失敗をする、職を失う
⑥職場や家庭でのサポートが得られない
⑦本人にとって価値あるものを失う
⑧重傷の身体の病気にかかる
⑨自殺を口にする
⑩自殺未遂におよぶ
とくに⑨、⑩の段階になると本人の判断能力は限られるため、周囲の人の働きかけで安全を確保し、適切な治療を受けられるようにする必要があるとしている。そういえば、上原さんも過去の自殺未遂を告白していたことがあった。
心からご冥福をお祈りします。
自殺予防 (岩波新書)
著者:高橋 祥友
販売元:岩波書店
(2006-07-20)
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