残念なことに東日本で暮らしていくには、原子力に関する最低限の知識を持っておく必要がある時代になってしまったようだ。連日報じられる原発関連のニュースを読むにもある程度知識がないとよくわからないし、よく理解していない人が語ったり報じたりすることによって余計に事態を理解しにくくなっている気もする。
で、文系出身で物理なんてすっかり忘却の彼方な私でも理解できるよう、原子力のしくみについてまとめてみた。以下の内容は『核兵器のしくみ 』(山田克哉 講談社現代新書)から必要な部分を要約したものである。3.11以前の2004年に出版されたこの本は一般の人に原子力の知識を深めてもらう目的でていねいな解説がなされているので、興味のある人には一読をおすすめしたい。
かなり長いので三回に分けて掲載する。間違いや問題等があったらご指摘いただけるとありがたく。
○原子力発電とは何か
原子力発電とは、原子炉内の核分裂によって生じるエネルギーを利用して発電をおこなう装置である。原子炉とはウランの核分裂を一挙に起こさず、ゆっくりと時間をかけて分裂させる装置で、原子炉内では核分裂が起きていても爆発は起きていない。原子力発電を理解するには核分裂について理解する必要があり、それには核の基本的な構成を知る必要がある。
○核とは何か?
世の中の物体は鉄のような原子、あるいは水のような分子から構成されている。原子の種類は100種類あまり。原子同士や分子同士を結びつける糊の役割をしているのは電気力である。原子の中には電気が内蔵されている。
どんな種類の原子でも中心には核(原子核)があり、その周りには電子と呼ばれるマイナス電気を帯びた極めて軽い粒子がまわっている。核はプラスの電気を帯びており、マイナスの電気とプラスの電気はお互いに引き合うため、電子はプラスの核に引き寄せられる。核や電子の帯びている電気はもともとこの世に存在しているものだが、プラスとマイナスで相殺されているため日常生活で電気を感じることはめったにない。
核にも構造がある。核を構成する基本的な粒子を「核子」と呼び、陽子と中性子の二種類がある。陽子はプラスの電気を持ち、中性子はまったく電気を持っていない。このため、核全体はプラスの電気を持っている。核が何個の陽子と中性子から構成されているかは原子の種類によって異なり、たとえば水素の原子核は陽子一個だけ、ウランの核は92個の陽子と146個の中性子から構成されている。
核はいくつかの陽子と中性子が非常に近い距離で構成されており、本来であればプラスの電気を持つ陽子同士の間で反発力が働くはずである。また、中性子同士や陽子と中性子の間も、何の力も働かなければバラバラになってしまうだろう。それにも関わらず核子同士を強力に結びつけているのは、核子同士の間で働く引力の「核力」である。核力は陽子同士の電気反発力をはるかに上回る。核力を世界で初めて解明したのが湯川秀樹博士である。
○原子の種類を決定する要素
原子の種類を決定する要素は、核内にある陽子の数である。陽子の数をその原子の原子番号といい、原子番号が増えるほど原子は重たくなる。陽子の数がその原子の電気的性質を決める。電気的性質は化学的性質に直接つながる。中性子は電気を帯びていないので化学的性質に寄与することはなく、中性子の数は原子名には関与しない。ウランの核には92個の陽子が存在するが、たった一つの陽子を取り去り91個にすると、それはウランではなくプロトアクチニウムと呼ばれるまったく別の核になってしてしまう。
○アイソトープ
陽子の数と中性子の数を足し合わせたものを核の質量数という。ウラン核は92個の陽子と146個の中性子で構成されているので、ウランの質量数は92+146=238となる。したがって、ウラン原子は次のように特徴付けられる。
ウラン:原子番号92(陽子の数)
質量数238(陽子数と中性子数の合計)
ところで、原子番号は同じで中性子数の異なる元素が存在する。これはアイソトープ(同位元素)と呼ばれている。たとえばウランにはウラン235(陽子数92、中性子数143)とウラン238(陽子数92、中性子数146)がある。陽子数は同じだからどちらもウランであるが、当然ウラン238のほうが重い。
○核が爆発する原理とは?
核の大きさは10兆分の1㎝ほどに過ぎない。そんな小さな核がなぜ核兵器や原子力発電に結びつくのだろうか。
一つのウラン核には92個の陽子と146個の中性子があり、それらは核力で非常に狭い領域に押し込められているが、陽子間に働く電気反発力は依然として存在している。しかも陽子は92個もあるのでその電気反発力はばかにならず、核をバラバラにするよう働く。したがってウラン核は不安定な状態にある。
一方、中性子は電気力を持たないが核力に寄与する。核力は陽子同士、中性子同士、陽子と中性子の間に同じ引力をもたらす。したがって核内の陽子の数が多くなると、陽子間の電気反発力を打ち消すために中性子の数が自ずと増えていく。中性子は核子のいわば糊付けの役目をはたすため、ウラン核の中では中性子の数が146個と陽子の92個を圧倒している。ところが、核を安定的に保つ陽子の数と中性子の数との比はだいたい決まっており、中性子の数が多過ぎても核は不安定になる。
このような理由で、ウランのように重たい原子核は核子が多いため壊れやすく不安定である。この「不安定」が爆弾や発電に結びつく。不安定であるということは、核内に大きなエネルギーが蓄えられていることを意味する。たくさんの核子を抱えた重たい原子核は内部に多量のエネルギーがたくわえられているため、外部にエネルギーを吹き出して核を壊そうとする傾向がある。
(この項続く)
核兵器のしくみ (講談社現代新書)
著者:山田 克哉
販売元:講談社
(2004-01-21)
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