文系による文系のための「原子力のしくみ」②原子力発電の方法

前回の続き。中身は前回と同じく主に『核兵器のしくみ』(山田克哉 講談社現代新書)からの要約。

○核分裂と核分裂連鎖反応

大きくふくらんだ風船を破裂させるには針でつついたり圧力を加えたりする必要がある。爆弾でも同様で、爆発させるには起爆装置が必要である。では、ウラン核の場合はどうか。針の役目をするのは中性子である。

中性子は電気を帯びていないので、ウラン核に近づいても電気反発力を受けない。中性子がウラン核に相当近づくと核力が働きはじめ、中性子はウラン核に吸収されてしまう。するとウラン核は振動をはじめ、核力で核子全部を核内に閉じ込めておくことが難しくなってくる。こうなると核はもともとプラスに電気を帯びているため電気力が働き、二つに分裂してしまう。これを核分裂現象という。

つまり、核が外からの中性子を吸収することによって、その核は分裂する。核の中には中性子がたくさんあるので、核が分裂するときには中性子が飛び出してくる。その数は核によって異なり、ウラン原子核の場合は平均2.5個くらい。

核分裂した後の二つの部分は分裂片と呼ばれ、やはりいくつかの陽子と中性子で構成されている。つまり、分裂片そのものが一つの核になっている。どんな分裂片ができるのかははっきりと決まっていない。核分裂で生じた二つの分裂片はお互いプラスの電気を持っているため、電気反発力で反対方向へ猛烈なスピードで吹っ飛んでいく。

1㎏の純粋なウランには約10の24乗個(1兆の1兆倍!)ものウラン核がある。この1㎏のウラン元素に一個の中性子を外からぶつけるとその中の一つのウラン核に吸収され、そのウラン核は分裂を起こし、2~3個の中性子が放出される。それらの中性子はまだ分裂を起こしていないウラン核に吸収され、そのウラン核も分裂を起こし……。このように核分裂は急速に広がっていく。これを核分裂連鎖反応という。(実際には1個の中性子がウラン核にぶつかっても必ず吸収されるとは限らない)。

核分裂の数が倍々ゲームで増えていくと、分裂片の数もネズミ算式に倍々で増えていく。各々の分裂片は猛烈なスピードで飛び回るので、分裂片の運動エネルギーの総和は莫大な量になる。原爆は多数の分裂片の持つ運動エネルギーが熱のもとになる。もし10の24乗個のウラン核全部が一瞬で核分裂を起こすと、その温度は1000万度以上! これほど温度が上昇するとすべては気体になり、ウラン元素はもとよりその周囲の空気もいっぺんに膨張する。これが核爆弾が引き起こす爆発現象で、強烈な衝撃波で建物や家屋をなぎ倒す。


○使えるウラン、使えないウラン

天然のウランにはウラン238とウラン235の二種類があり、陽子数が同じで中性子数(あるいは質量数)が異なる原子数をアイソトープと呼ぶことはすでに述べた。両者を比較すると次のようになる。

ウラン238:陽子数92、中性子数146
ウラン235:陽子数92、中性子数143

天然ウランの99.3%をウラン238が占め、ウラン235は0.7%しかない。そして核兵器に使用できるのは0.7%しかないウラン235のほうである。ウラン238は陽子数と中性子数が「偶数-偶数」の関係にあり、ウラン235は「偶数-奇数」の関係にある。「偶数-奇数」関係のウラン235のほうがはるかに核分裂を起こしやすい。

このため採掘したウラン鉱をそのまま使って核爆弾をつくることはできず、ウラン235だけを分離選別する必要がある。ウラン235の含有率が大きいウランを「濃縮ウラン」と呼び、核爆弾に使用するウランは濃縮度が100%近くなければならない。

○原子炉
核爆弾は一億分の一秒という短時間で核分裂連鎖反応を終了させ、爆発現象を起こす。一方、核分裂連鎖反応をゆっくりコントロールしながら起こす装置が原子炉である。

核分裂から生じる中性子の多くは非常に速いスピードで飛び出してくるため、必然的に連鎖反応が早く起こってしまう。そこで中性子を減速させる必要があり、原子炉内には減速材が設置される。減速材に使用する物質は複数あり、純粋な水も減速材になりえる。中性子の重さと陽子の重さはほとんど等しく、中性子が陽子にぶつかると中性子は大きく減速される。水には水素由来の陽子がたくさん含まれているため中性子の減速材に適している。

ただし減速材で中性子のスピードが小さくなっても、依然として核分裂連鎖反応はネズミ算式に増えていく。減速材は核分裂連鎖反応の進行を緩やかにするだけである。暴走させずに原子力の出力を一定に保つために、原子炉の中には中性子を吸収させる制御棒が挿入されている。制御棒はカドミウムなどの中性子を強く吸収し、かつ分裂を起こさない物質から構成されている。原子炉内に深く制御棒を挿入すれば、それだけ多くの中性子を吸収する。制御棒を完全に抜けば原子炉内の中性子は増加する。

○原子炉の温度
核が中性子を効率よく吸収し核分裂するには、中性子ができるだけゆっくり走ったほうがよい。核分裂を引き起こしやすくするためにも、核分裂連鎖反応を暴走させないためにも、中性子を減速させる必要がある。

中性子のスピードは、原子炉内の温度に匹敵するスピードまで落ちる。原子炉の温度は、炉内にある核の分裂片や、減速材などの原子や分子の平均運動エネルギーによって決まる。運動している粒子(分裂片、原子、分子)の運動エネルギーは、その粒子の重さとスピードの二乗に比例する。つまり、原子炉内の粒子のスピードが大きいと温度が高く、スピードが小さいと温度が低いということになる。

○臨界
核爆弾では核分裂連鎖反応の暴走状態が起こるが、制御棒を使い核分裂から生じる二つの中性子のうち1個を制御棒に吸収されるようにし、1つだけを他の核に吸収されて核分裂が起こるようにすると、核分裂の回数は世代数が増えても一定で、核分裂連鎖反応は暴走しない。

このように、ある一つの世代に分裂を起こす中性子数が、一つ前の世代に分裂を起こす中性子数と同じになったとき、原子炉は臨界に達したという。原子炉の臨界は車が一定の速度で走っているような状態で、時間がたっても中性子数が増えも減りもしない。


○原子力発電のメリット・デメリット

火力発電は石油や石炭などを必要とし、石油を燃やすと地球温暖化の最たる原因である二酸化炭素や、硫黄酸化物や窒素酸化物などの毒性ガスが排出される。これは燃焼現象が空気を必要とする化学反応で、化学反応の後には必ず反応生成物が残るためである。

原子力発電は核燃料の核分裂連鎖反応によってエネルギーを取り出すため、二酸化炭素などを生じない。また、火力発電に比べると少しの燃料で長時間発電し続けることができる。二酸化炭素による地球温暖化が問題となった近年は、原子力発電への期待が高まっていた。

一方、原子力発電のやっかいな問題は「使用済み核燃料」である。核燃料がある程度核分裂反応を起こすと出力低下が起こり、新しい核燃料と交換しなければならない。使い古しの核燃料は「使用済み核燃料」と呼ばれ、相当数の核分裂片が含まれている。核分裂片からは人体に有害な放射線が放出され、簡単に捨てるわけにはいかない。

また、いくら安全性を第一に考慮して設計しても100%安全であるという保証は得られない。仮に設備が完璧だったとしても、それを扱うのは人間である。ウクライナのチェルノブイリやアメリカのスリーマイル島で起こった原発事故は、人間のミスによって引き起こされた。
(この項続く)

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