すき家(ゼンショー)が過重労働を放置したメカニズム その1

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  pyoto by :kyu3 すき家:牛すき鍋定食(御飯大盛り) – 2

 過重労働や過労死、過労自死の取材を行っていると、被害者側からみた職場の状況は証言が出てくるが、企業側、経営者側がどんな認識を持ち、どう対応していたかについてはまず話を聞くことができない。私が取材依頼を行った範囲では、すべて取材は拒否だった。目先の広報対応としては正解かもしれないが、再発防止のためにはきちんと調査して公表したほうがよいのに、と思う。

 その点、7月末に発表された「すき家」の労働環境改善に関する第三者委員会調査報告書は、同社の経営者層がどのように労働実態を認識し、過重労働を放置して多くの「パワーアップ閉店」を招いたのかが驚くほど詳しく記述、分析されている。なぜ、すき家では過重労働を放置したのか。少し前に書いた記事とかぶるが、この第三者委員会報告書をもとにまとめてみよう。

なお、すき家を運営しているのは事業会社であるゼンショーで、その親会社がゼンショーHD(ホールディングス)である。


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○どの程度の過重労働が発生していたのか

 前提として、次のような状況がすき家では発生していた。

  • すき家の非管理監督者社員の平均残業時間(月間)は少ないときでも40時間、多いときで約80時間を超えており、100時間以上の社員がしばしば100名を超えていた。
  • 残業時間が100時間以上のパート・アルバイトも常に数百名いる状況で、中には月間労働時間が400時間から500時間に上る者もいた。
  • しかも労働時間を正確に記録しない慣習が蔓延していたため、これらの数字も実態を正確に反映しているとはいえない。
  • すき家の労務環境について、労働基準監督署から是正勧告書を2012年度に13通、2013年度49通を受けていた。
  • 深夜のワンオペ(一人勤務体制)が多数の強盗事件を招いたことから警察の指導もあり2011年10月にワンオペの順次解消を発表したが、実際には解消されなかった。

○会社、経営陣は過重労働を認識していたのか?

 すき家で労働時間管理などの労務管理を担当していたのはゼンショー人事総務部内の人事労務課である。なお、担当者のほとんどはゼンショーHDの人事部・労務部との兼任で、ゼンショーとゼンショーHDとの間で明確な役割分担はなされていない。

 人事労務課では、2013年3、4月以降、社員が退職する際は上司に退職理由の確認を義務付けた。集められた退職理由はすき家営業本部、ゼンショーCOO、ゼンショーHD取締役グループ人事・総務本部長まで回覧されていた。

そこには「居眠り運転で交通事故を3回起こした」、「年末親に会い、20kg痩せ見てられない、辞めてくれと頼まれた。」「シフト時間、シフト調整により寝る暇がない。休みがない。3ヶ月に1回あれば良い方」など、相当数のマネージャーが劣悪な労働環境に置かれていたことが示されていた。

 一方、すき家には労働災害事故や過重労働者数の増加を懸念し、こうした状況を改善することを目的に「SK労働安全委員会」が設置されていた。この委員会は2012年11月以降、月1回のペースで開催され、すき家営業本部の責任者(COOまたはゼネラルマネージャー)、人事労務担当、ゼンショーHDの取締役グループ人事・総務本部長、人事部長、労政担当らが委員として参加していた。

 この委員会では過重労働に関する現状報告やその対策に関する議論が行われていた。とくに「パワーアップ閉店」が広がった2014年1月から4月にクルーの定着率や社員とクルーの労働時間が急激に増加していることも報告されていた。しかし、SK労働安全委員会における報告や議論がゼンショー、ゼンショーHDの取締役会に報告された形跡はない。

 さらに、ゼンショーHDには「総合リスク管理委員会」と「コンプライアンス委員会」が設置されている。両委員会は同じメンバーで構成され、2013年8月以降は取締役グループ人事・総務本部長が委員を務め、本社の本部長や部長クラスの役職者が委員を務めていて、時おり労災に関する報告や議論が行われたことはあったが、過重労働や労働環境に関するリスクや労務コンプライアンスに関する報告や議論がなされることはほとんどなかった。

 両委員会の活動は半期に一度、ゼンショーHD取締役会に報告されていたが、委員会では過重労働を問題としていなかったため、ゼンショーHDの取締役会でその報告に基づき過重労働等の労務リスクに関する議論や検討がなされた形跡はない。

○過重労働の実態は報告されていたものの……

 すき家の労基署への対応はゼンショーHDの労政部が中心になっていた。労政担当は対応についてゼンショーHD社人事部長に報告・相談を行い、ゼンショーCOOにも情報は共有されていた。労基署対応は一定程度、小川CEOにも報告がなされていた模様であるが、小川CEOをはじめとする経営幹部や担当者からゼンショー、ゼンショーHD取締役会への報告が行われていた形跡はない。

 加えて、ゼンショーHDの内部監査部は2013年2月から5月にかけて内部監査を実施し、その結果は小川CEO宛の内部監査報告書として取りまとめられた。この報告書では、以下のような指摘がなされている。

  • 店舗マネージャーが勤怠実績を過少に申告している懸念。これは店舗マネージャーが見かけ上の人件費圧縮を意図している可能性がある。
  • 店舗のシフト調整が不十分で補完を担当するSM(ストアマネージャー)が居眠り及び不注意等で車両事故を起こした例がある。
  • 車両事故の背景から、シフト時間を延長して穴埋めしている従業員がいることがうかがえる。
  • 3回以上の複数事故者の傾向をみると長時間勤務、もしくは若手社員に事故が集中している。
  • 重大な車両事故は氷山の一角ではないかと懸念される。

 内部監査報告書は小川CEOに対し事前に提出したうえで、個別に時間をとって要点について説明されたが、小川CEOはこの指摘についてよく覚えていないと述べている。しかし第三者委員会は3か月をかけて作成され、小川CEOが決裁印を押した内部監査報告書の内容を確認していないというのは想定し難く、「小川CEOとしても内部監査報告書の上記指摘については認識していたというべきである」としている。

 また、内部監査部は報告書の決済に先立ってゼンショーHDの取締役グループ人事・総務本部長、常務取締役、監査役2名、ゼンショーの監査役、COO等を対象に監査講評会を開催しており、出席者はその内容を共有していたと考えられる。

 この監査講評会を受けて出席者から提出された意見書には、次のような記載がある。

  • 「1つ1つの課題に対して、責任部署&責任者を明確にしてスケジュール管理と進捗管理を定期的(月次等)にSKカンパニー内でやっていただく必要がある。」
  • 「とかく、売上・入客数UPにのみ意識が行きがちなので、事務方の長が強い意志を持って営業方にアドバイスとルール変更起案、進捗管理を行うべきである。」
  • 「シフト運営(人ぐり)が思考停止の根源になっている地域も多いので、採用のフローと体制の見直しも必要かもしれない。」

 この意見書は内部監査報告書に添付する形で小川CEOにも提出された。

 以上のように、ゼンショーおよびゼンショーHDの経営陣は過重労働や労働環境の実態について一定程度、共有しており、警鐘を鳴らす者もいたようだが、そうした情報を受けても抜本的な対策は取られなかった。

 小川CEOをはじめとする経営陣は、過重労働を重大な経営リスクや重大なコンプライアンス問題と認識せず、経営マターにしなかったのである。人事部門も警鐘を鳴らしてはいたものの、最終的には営業本部の判断・対応に委ねる姿勢にとどまっていた。

 第三者委員会はこう指摘している。

 このような各部門・各機関の対応からは、目の前にあるはずの過重労働問題等に対する“麻痺”が社内で蔓延し、「業界・社内の常識」が「社会の非常識」であることについての認識が全社的に欠如していたものと言わざるを得ない。

 では、なぜ過重労働問題に対する麻痺が起こり、すき家は「問題」として認識できなくなったのか。だいぶ長くなったので、残りは改めて。

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