Ustreamで突然美人嫁との結婚を発表し、実家から徒歩1分の場所に一軒家をポンとプレゼントされた落合家の一粒種フクシ君。そんな自由人が伸び伸び育った落合家は偉大なる三冠王という世帯主の実績とは裏腹に、親バカな父・博満と猛妻・信子、ドラ息子のフクシ君とそれぞれキャラの強い面子からなるヘンな一家というイメージをもたれがちです。
まあ、現役時代からの落合ファンであるわたくしも、いくら優勝して嬉しいからって親子でキスするのはどうかと思うし、そういう見方を理解できないわけでもないですが(笑)
でも、そんな感想は表面的な現象を見ているだけに過ぎない、ということが『フクシ伝説 うちのとーちゃんは三冠王だぞ!』(落合福嗣 集英社)を読むとよくわかるでしょう。
フクシ伝説 うちのとーちゃんは三冠王だぞ!
著者:落合 福嗣
集英社(2010-10-18)
販売元:Amazon.co.jp
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今でこそ親子三人で旅番組に出演したり、日本シリーズの試合直後に落合監督がフクシ君ののUstream番組に電話生出演したりときわだった家族愛を見せるこの一家ですが、ずっと関係が良好だったというわけではありません。このあたりのいきさつが「オレVSボク」父子対談で語られます。
フクシ君は「落合の息子」という理由で子供の頃から周囲のイジメを受けたそうです。それも中学生のときには二人の先輩に金属バットでヒザを割られ、高校時代は1対7でボコボコにされるという悪質さ。こうした事件が度重なって高校時代に自殺を真剣に考えるほど追い込まれ、遅めの反抗期を迎えます。
ボク曰く。
<あの頃、「ボクがこんなにもイジメられるのは、とーちゃんが有名だからだ」って考えるようになっちゃてたから>
<ボクがとーちゃんに「オマエ」って言い放った時、「オマエとはなんだ!!」って激怒して一触即発になったんだよ。>
<でも、ギリギリで殴り合いはしなかった。かあちゃんが真ん中に入って止めるから。>
そんな関係が修復されたのは、信子夫人の仲立ちで話し合いをしたときでした。
オレ曰く。
<オレの高校時代そっくりそのまま(笑)。やっぱりオマエはオレの子だよ。オレも先輩からの体罰がイヤで学校に行かない時期があったんだ。高校に入ってすぐレギュラーで4番。だからそれをひがむ先輩がオレを槍玉に挙げて、毎日、暴力だよ。>
<オレも先輩の妬みで相当イジメられて、何回も野球をやめたんだぞって話を初めてオマエにしたんだよな。>
<あと、あの時、オレはオマエに「落合博満って名前を利用しろ」っつったんだよな。>
父もイジメられてたと知ったフクシ君は「あ、とーちゃんも一緒なんだ」と思い、「とーちゃんの子供で得してる部分もかなりある」ことに気付きます。
そういえば、落合監督が中日監督就任を要請されたとき、最初は躊躇したという話がありましたが、その理由はこの家庭問題だったんですね。下手をすれば一家崩壊の危機でしたが、それを乗り越えたのは信子夫人の支えもあって親子が向き合い、腹を割って理解しあったからだと思います。信子夫人は疑いようのない良妻。
監督としての落合氏は外野の声などおかまいなしに、チームの勝利に最善と自分が信ずることを貫きます。同様に、家庭では世間からどう見られようと子育てもオレ流で「所帯持ってもオレが面倒見る」と言い切ります。
<オレらがオマエの生活の面倒見られる間に、自分でなりたいものをゆっくり探せばイイ。おれはそう思っている。そこの部分に関しては一般家庭とウチとの最大の違いだろうな。>
単にカネを子供に渡すだけの親と似て非なるのは、人として真剣に息子と向き合ったプロセスの有無と、子供の成長のために自分が見られる面倒は全部見てやるという覚悟。本書の表紙はその象徴かもしれません。普通、使わせないだろこの写真(笑)。原監督一家や星野監督一家じゃあり得ない。そのかたちはちょっと奇妙に感じるかもしれませんが、世間体をつくろっただけのスカスカな家族関係とどちらがいいか。誰に何の迷惑もかけていないんだし。
わたくしはけっこう本気で、落合一家のように世間体を気にせず自分たちの幸福のあり方を模索する人や家族が増えることが、日本再生のカギじゃないかと思った次第。ネタで釣りつつネタだけでは終わらない良書です。
なぜ日本人は落合博満が嫌いか? (角川oneテーマ21)
著者:テリー 伊藤
角川書店(角川グループパブリッシング)(2010-05-10)
販売元:Amazon.co.jp
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