紅白歌合戦で美輪明宏さんが歌った「ヨイトマケの唄」は圧巻でした。まだ機械化されていない現場で日雇い労働する母親に育てられた子供が、母親の仕事を理
由にいじめられ、悔しい思いをしながらも勉強して大学へと進学し、立派なエンジニアとなる物語。Wikiによるとシングルレコードの発売は1965年で、
40万枚も売り上げたそうです。
この母子の情愛と貧困からの脱出を歌った唄が発売から50年近く経ったいま、再び喝采を浴びたのは美輪さ
んのパフォーマンスの素晴らしさもさることながら、貧困のなかで苦闘する母子の姿にどこか共感する人が多かったからのように思います。おそらくバブルの頃
にこの唄を聴いても、古くさい歌で切り捨てられたのではないでしょうか。
で、たまたまレコードが発売された翌年のまとまった統計データを見つけた(『日本統計年鑑 平成22年』)ので、いくつかの項目を抜き出して現在の数字と比べてみました。
GDP | 一人当たり | 発電電力量 | 東証株価指数 | 外国為替相場 | |
1966 | 38,170 | 386 | 215,355 | 109.88 | 362.47 |
2010 | 481,773 | 3,762 | 1,156,921 | 885.43 | 81.51 |
まず、経済に関するデータを拾ってみると、44年間で日本経済は大きく拡大し、人々の生活も豊かになったことがわかります。
総人口 | 老年人口指数 | 合計特殊出生率 | 平均寿命・男 | 平均寿命・女 | |
1966 | 99,036 | 9.4 | 1.58 | 68.35 | 73.61 |
2010 | 128,057 | 36.1 | 1.39 | 79.55 | 86.30 |
一方、人口関連のデータを見ると、平均
寿命が男女とも延び、老年人口の割合が非常に増えていることがわかります。なお、1966年の合計特殊出生率が1.58になっているのは「丙午」の影響に
よるもので当時としては非常に低く、翌年は2.23です。つまり、当時例外的に低かった出生率よりも、現在はもっと低くなっている。
完全失業率 | 社会保障給付費(対国民所得比) | 生活保護(被保護人員・1000人) | 国民医療費 | |
1966 | 1.3 | 5.9 | 1,570 | 1,300 |
2010 | 5.1 | 29.4(2009年) | 1,952 | 36,007(2009年) |
また、雇用や社会保障関連を見ると、失業率や社会保障給付費の割合の増加が目立ちます。何より、人口が増えているとはいえ、生活保護を受けている人が44年前より増加していることには驚きです。
改
めてこのように見ていくと、44年間と比べ経済面は規模と豊かさが拡大したものの、少子高齢化が進み、仕事に関する不安は増大し、社会保障負担が増えてい
くことも確実――。絶対的な豊かさの水準としては現在のほうが高いけれど、経済成長が当たり前だった時代とは真逆のダウントレンドのなか、将来に対する不
安感という面では現在のほうが暗澹としているのかもしれません。そこにヨイトマケの唄が響いたと。
出生率の減少や独身世帯の増加を考える
と親子の情愛を得られる人が少なくなっていき、唄の主人公のように勉強して大学を出てもよい仕事に就けるとは限らない。仕事に就いても非正規雇用で不安定
だったり、過重労働にさらされたり、リストラや技術の陳腐化といったリスクが増大していたり。もしかすると、現在はヨイトマケの唄が発売された頃とは別種
の貧しさがあり、それは複雑で解決の難しい厄介な問題なのかもしれません。
どうすれば現代の貧困を解決できるのか。その道筋をつけるのが、2013年の大きな課題になるのだと思います。
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