アベノミクスの恩恵は高齢者より若い人のほうがあった、という話

「アベノミクスで就業者数は250万人増えたが、そのうちの211万人は65歳以上である」

→「雇用が増えたといっても高齢者ばかりじゃないか!」「高齢者以外は大して増えていない!」

 Twitterのタイムラインを眺めていると、こうした内容のコメントが少なからず流れてきます。でも日本は少子高齢化が進行中で、そもそも高齢者人口が増える一方、若い人の人口は……、という状況にあります。

 どの世代の雇用がどの程度改善したかを検討するには、それぞれの世代の人口の動きを考慮する必要があります。ある世代で就業者数が増えても、それ以上にその世代の人口が大幅に増えていれば、人口の伸びと比べるとそれほど伸びてはいませんね、ということもあり得ます。

 それには年齢別の就業者数よりも就業率を見るのが適切です。「就業率」とは15歳以上の人口における就業者の割合です。つまり、就業率=就業者数÷人口。就業率の推移を見れば、人口のなかでどれくらいの人が働いているかの増減が見られるわけです。

 就業率を見る前に、まず就業者数の推移を確認しましょう。最下段の「増加人数」は2017年から2012年の就業者数を差し引いた人数です。

 

就業者数の推移(単位:万人)

 総数15~64歳65歳以上
(2012)62805684596
(2013)63265690637
(2014)63715689682
(2015)64015670732
(2016)64655695770
(2017)65305724807
増加人数
(2012-2017)
25040211

 確かに、人数では65歳以上の増加が圧倒的で15~64歳の増加人数はその5分の1以下に過ぎません。ところが就業率を見ると……

 

就業率の変化(単位:%)

 総数15~64歳65歳以上
(2012)56.570.619.5
(2013)56.971.720.1
(2014)57.372.720.8
(2015)57.673.321.7
(2016)58.174.322.3
(2017)58.875.323.0
増加ポイント
(2012~2017)
2.34.73.5

 2012~2017年の間に65歳以上の就業率は3.5ポイント改善しているのに対し、15~64歳は4.7ポイントとそれを上回る改善を見せています。つまり、65歳以上よりも15~64歳のほうがそれぞれの人口に占める就業者の割合は改善されています。

 

 グラフにするとこのようになります。当然のことですが、65歳以上の就業率は低いですね。

 

年齢階級別就業率の推移(単位:%)

 15~2425~3435~4445~5455~6465歳以上
(2012)38.579.479.882.365.419.5
(2013)39.780.280.982.966.820.1
(2014)40.381.081.883.368.720.8
(2015)40.781.282.483.870.021.7
(2016)42.482.582.784.671.422.3
(2017)42.583.683.685.173.423.0
増加ポイント
(2012~2017)
4.04.23.82.88.03.5

 さらに年齢階級別就業率を確認すると、2012~2017年で最も改善されたのは55~64歳で8ポイント、次いで25~34歳の4.2ポイント、15~24歳の4.0ポイントで、65歳以上は下から二番目になっています。

 これら就業率の推移から読み取れるのは、雇用の改善は65歳以上の高齢者に限ったことではなく、むしろ15~24歳、25~34歳の層のほうが改善されていることです。安倍政権の支持率は若者が高くて高齢者は低いと指摘されていますが、そらそうよという感じ。

 そもそも冒頭にあげたtweetの元ネタになっていると思われる藻谷浩介氏の記事には、高齢就業者数の増加と39歳以下の就業者の減少を指摘した上で次のように書かれています。

 これらは別に政権が悪いのではない。日本では64歳以下の人口、特に39歳以下の人口が減っているので、上記のような流れは景気に無関係に止めようがないのである。
「森友学園」国会審議 土俵の外から俯瞰せよ=藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員)

 結局、高齢就業者数の大幅増加と15歳~64歳就業者数の増加数の少なさは人口問題に帰せられるテーマであって、昨今の雇用改善を否定するものではまったくありません。アベノミクスを何でもかんでも否定するために事実とその解釈まで捻じ曲げてしまうと、適切な政策判断ができなくなってしまうので極めて有害です。

 この手の主張は、それをしている人が雇用や人々の生活を本気でよりよくする気がないか、雇用情勢をまともに判断する力がないか、ということを判断するための一つの目安だと思います。

(本記事のデータ出典:総務省統計局 労働力調査長期時系列データ

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