日本の雇用システムを再構築する「ビッグ・プッシュ・アプローチ」

 日本的雇用システムが行き詰まりを見せ、長時間労働抑制に留まらず生産性向上につながる働き方改革が求められると同時に、AIやIOTという雇用を脅かす可能性のあるテクノロジーが台頭し、新たな技術の波にどう立ち向かうかも雇用の大きな課題となっている。

 昨日(4月10日)開催されたREITIの政策シンポ「日本の雇用システムの再構築―生産性向上を目指したAI時代の働き方・人事改革とは」はそうした問題意識に基づき(1)日本の人事システムの見直し、(2)AIを活用した働き方改革、(3)企業内データを活用した働き方と生産性の改善についての研究成果報告と、HRテクノロジーの専門家、活用企業担当者、行政担当幹部が参加してAI時代の働き方・人事改革の最前線について議論が行われた。

 雇用政策や人事に関する先端的な取り組みが知ることができ非常に有益だったこのシンポジウムのなかで、慶応大学の鶴光太郎教授が雇用システム再構築の方法として「ビッグ・プッシュ・アプローチ」を提示していた。これについて以下に要約しておく。配布されたレジュメと私のメモ及び記憶に基づいた記述である。間違いがあったらご指摘いただけるとありがたく。

3つの無限定性に対する「ビッグ・プッシュ・アプローチ」

 日本の正社員には勤務地、職務、労働時間が限定されていない「無限定性」が欧米諸国と比べ顕著である。その背景には正社員雇用がジョブ型の「就職」というより、メンバーシップ型の「就社」になっていることがある。

 無限定正社員システムが長時間労働を引き起こすのは当然の帰結である。また無限定正社員の手厚い待遇・雇用保障が非正規社員の正社員転換を阻害したり、負担の重さが女性活躍の足を引っ張ったり、後払い賃金システムや定期的異動によるなんでも屋育成による専門性欠如が人材の転職を困難にし企業横断的な人材資源の配分にゆがみをもたらす。

 無限定正社員システムは歴史的に労使の間で良かれと思って形成されてきたシステムで、一朝一夕には変えることのできない岩盤を形成している。無限定正社員システムを変えるには「ビッグ・プッシュ」が必要であり、それには政府の関与が必要である。

 労働時間の無限定性の是正に関しては、働き方改革実行計画に盛り込まれた「時間外労働の上限規制の導入」が政府によるビッグ・プッシュと解釈が可能である。

 勤務地の無限定性の是正については、本人の事情への考慮や同意を必要とする人事管理を加速するような政府の関与を考えるべきではないか。一方で職業能力やスキル向上の視点から転勤の再検討が重要である。

 職務の無限定性の是正には、雇用システムの入り口、つまり新卒一括採用等を変える必要があり、それには教育システムも含めた長期的な課題となる。職務の無限定性の最大の岩盤は後払い(年功)賃金システムで、定年制や継続雇用制度の抜本的見直し・廃止というビッグ・プッシュ・アプローチが有効になるだろう。


 

 AIと仕事というホットなテーマでも面白い研究報告があったが、これもまたそのうち。

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