(写真出典:写真素材ぱくたそ)
「労働時間は法律で規制されているのに、なぜ過労死や過労自殺が発生するほどの長時間労働がまん延しているのか?」という疑問は多くの人が抱くものでしょう。結論からいえば法が守られていないことや、後述するように法の抜け穴があるのが大きな理由ですが、そもそも労働時間規制の内容があまり知られていないことも背景になっています。
で、労働時間規制についてわかりやすくまとまった資料が見当たらなかったので、ちょっとまとめてみました。
○労働時間規制の全体像と原則
(出典:水町勇一郎『労働法入門』岩波新書 P.119)
上の図は労働時間規制の全体像を示したものです。まずは原則から見ていきましょう。
- 使用者は原則として1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけない。
- 使用者は労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければいけない。
- 使用者は少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければいけない
これらに違反した使用者には、労基法119条で刑事罰による制裁もありえます。
ただし、原則が適用されない労働者がいます。
・農業、畜産業、水産業に従事する労働者
・管理監督者および機密事務取扱者
・監視、断続労働従事者(行政官庁の許可を得た者に限る)
「名ばかり管理職」が大きな労働問題として取り上げられたことがありますが、これは企業が上の「管理監督者」に本来該当しない労働者を当てはめて、残業の割増賃金の支払いを逃れようとしたために発生しています。
○時間外労働、休日労働の条件
労働時間規制の原則が適用される労働者に時間外労働、休日労働をさせるには、労働組合などと取り決めを定めて行政官庁に届け出を行う必要があります。この労使協定を時間外労働協定、いわゆる「36(さぶろく)協定」といいます。ちなみに36協定と呼ばれるのは、労基法36条に規定があるからです。
当然ながら36協定は時間外労働や休日労働を無制限に認めるものではありません。延長時間の限度については次の表のように定められています。
期間 | 限度時間 |
1週間 | 15時間 |
2週間 | 27時間 |
4週間 | 43時間 |
1か月 | 45時間 |
2か月 | 81時間 |
3か月 | 120時間 |
1年間 | 360時間 |
(出典:厚生労働省 時間外労働の限度に関する基準)
さらに臨時的に限度時間を超えて時間外労働が必要になる特別の事情が予想される場合、「特別条項付き協定」を結ぶことで限度時間を超える延長時間が可能となります。
このように36協定や特別条項付き協定によって、違法にならずに長時間労働をさせることが可能になっているわけです。
○時間外労働、休日労働に対する割増賃金
時間外労働と休日労働に対しては割増賃金の支払いが必要になります。割増率は次の通りです。
- 時間外労働:2割5分以上
- 月60時間を超える時間外労働:5割以上(中小企業は適用猶予)
- 休日労働:3割5分以上
また、深夜労働(午後10時から午前5時まで)をさせた場合も2割5分の割増賃金を支払わなければなりません。深夜労働と時間外労働、休日労働が重なった場合にはそれぞれ合算して支払わなければなりません。
月60時間を超える時間外労働の割増賃金率は、平成22年4月から以前の2割5分から5割に引き上げられました。その目的は時間外労働の抑制とされていますが、割増賃金率の引き上げは労働者にとってはさらに残業を増やすモチベーションになりかねないといった批判があります。
ここまでが労働時間規制の原則で、特則についてはまた追加する予定です。
(参考書籍・URL)
水町勇一郎 『労働法入門』岩波新書
厚生労働省 時間外労働の限度に関する基準
労働政策研究・研修機構 Q1.労働時間についての法規制はどうなっていますか
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