トランプ大統領の誕生と劣化したアメリカの仕事と雇用

 

 2016年のアメリカ大統領選挙はメディアで報じられた大方の予測に反し、ドナルド・トランプの勝利となった。政治のズブの素人である70歳の新人が元大統領夫人にして前国務長官のヒラリーに勝利したのである。

 一連の大統領選速報を見ていて驚かされたのはこの地図だった。

 

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(出典:Yahoo! 米大統領選開票速報

 ヒラリーが制したニューヨーク州でさえ、都市部以外は圧倒的にトランプ支持が広がっていた。人種、富裕層と貧困層などトランプは米国の分断を煽って支持を集めていると指摘されてきたが、それをよく示す一例である。

 しかしリーマンショック以降のアメリカ経済は基本的には堅調で、失業率も低下していると伝えられてきた。国として豊かになっているのに国内の分断を煽ることが支持につながったのは、どのような背景があったのだろう。仕事や雇用の側面から、トランプ大統領誕生の背景について眺めてみる。

 なお、以下のデータで出典の記載のないものは『データブック 国際労働比較(2016年版)』(労働政策・研修機構)からの引用である。

 

失業率は低下したが……

 まず失業率の推移を確認してみよう。

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 アメリカでは2010年以降、失業率は低下してきた。ただし、1年以上失業している長期失業者の推移を見てみると次のようになっている。

 

長期失業者の割合(1年以上、%)
  2012 2013 2014
米国 29.3 25.9 23
日本 38.5 41.2 37.6

 こちらも2012年以降、低下傾向ではあるが、2005年は11.8%に過ぎなかった。つまり、9年前と比べ2014年は長期失業者の割合が倍近くの水準である。(日本の長期労働者の割合の多さも気になるが、こちらはまたそのうち)。

 

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(出典:大和総研 アメリカ経済グラフポケット2016年10月号)

 また、生産年齢人口のなかで働く意思を表明している人の割合である労働参加率をみると、近年のアメリカでは一貫して低下が続いている。その要因としては高齢者の増加や女性の社会進出増加のピークアウトという構造的な要因と、働く意欲を失って労働市場から退出する人の存在が指摘されている。

 失業期間が長くなった人は、労働市場から離れる傾向が強まる。失業率は失業者数÷労働者数なので、長期失業から仕事探しをあきらめる人が増えて労働参加率が低下し、労働者としてカウントされる人々が減少したことが失業率の低下につながっている可能性がある。要するに、アメリカの雇用の質は見かけほどよろしくないようだ。

 

不平等を表すジニ係数と相対的貧困率が悪化

 そのような状況になれば当然、経済的に苦しむ人々も増加するだろう。

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 所得分配の不平等の度合いはジニ係数で表され、0に近づけば平等に近づき、1に近づけば不平等の度合いが増したことを示す。2000年頃と最新のジニ係数を比べると、アメリカはかなり不平等の度合いが強まっている。

 

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 また、一つの国で大多数の人々より貧しい相対的貧困者の比率を表す相対的貧困率を他の国々と比べると、アメリカの高さは際立っておりドイツ、フランスの2倍以上ある。

 これらの数字を見ていくと、リーマンショック以降の経済成長やグローバル化の恩恵に浴していない人々がアメリカにはかなり存在することがうかがえる。おそらく地方で製造業などの産業に従事し、ITなどの成長している産業にシフトできなかった人々がそうした層だと考えられる。

 いくら我々の手腕でリーマンショックの危機を脱した、経済を豊かにしたと言っても、一方でとんでもない金持ちが生まれるのを指をくわえて見ているしかない豊かさから取り残された人々からすれば既存のエスタブリッシュメントなんかくそくらえであり、その代表選手みたいなクリントンなんか支持できるわけがない。政治経験のないまっさらなトランプのほうがむしろ期待できるし、憂さ晴らしにもなる。

 ちなみに#MAGAでTwitterを検索すると、トランプを支持していた側の雰囲気がある程度つかめる(MAGA=Make America Great Againのことで、トランプの選挙スローガン)。

 で、エスタブリッシュメント側であるマスメディアや都市部からは、エスタブリッシュメントなんてくそくらえという人々の気持ちは投票結果が出るまで見えなかった、というのが今回の大統領選の構図だったのだろう。でも、憂さ晴らしに選んだ候補者が全体としてよい方向に国家を運営できるかといえば、かなり疑問が残るけれど。

 今回の大統領選は社会から置き去りにされる人々の増加がいかに危うい選択につながるかを示す現象であり、非正規労働者と正規労働者との格差や無業者の存在等々の問題を抱える日本にとっても他人事ではないだろう。

 

 

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