文系による文系のための「原子力のしくみ」③放射線とは?

前回の続き。中身は前回と同じく、主に『核兵器のしくみ』(山田克哉 講談社現代新書)からの要約。

○放射線
原子炉のなかでは燃料の核分裂によって放射線が生まれる。放射線にはアルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線などが存在する。放射線を出す物質を放射性物質といい、放射線を出す能力を放射能という。放射線はいずれも人体細胞を侵す。放射線は自然界にも存在し、少量なら健康に影響を与えないいま、放射線が大きな問題になっているのでこれについても要約しておこう。

○アルファ線
アルファ線とはアルファ粒子の流れである。それは陽子二個と中性子二個が核力で結ばれて構成されている。陽子二個と中性子二個の組合せといえば、ヘリウム核である。要するにアルファ粒子の正体はヘリウム核である。

前に述べたようにウラン核のような重い核ほど不安定で、いくつかの陽子や中性子を追い出して安定しようとする傾向が強い。その中には二個の陽子と二個の中性子が結びついてそのまま核の外に追い出されることがある。追い出された陽子二個と中性子二個はアルファ粒子(ヘリウム核)として現れる。

ウラン238がアルファ粒子を放出すると、陽子数90のトリウムというウランとはまったく別種の原子に変わってしまう。核がアルファ粒子を放出する現象は核のアルファ崩壊と呼ばれる。ウラン238が1㎏(10の24乗のウラン核を含む)あったとして、すべての核が同時にアルファ崩壊してトリウムになってしまうことはまず考えられず、ゆっくり時間をかけてアルファ粒子を放出し続けていく。

個々のウラン238核はアルファ粒子を放出した後はトリウム核という別物に変わってしまうので、時間がたつにつれウラン238核は減少していく。ウラン238の核の数が最初の半分まで減る時間のことを「半減期」という。半減期は元素の種類によって異なり、ウラン238の半減期は45億年。これは地球の年齢にほぼ等しい。

アルファ粒子は他の放射線と比べ重いため直進し、二個の陽子を含んでいて電荷も大きいため、物質にあたると電気的に強く反応する。つまり、アルファ粒子は物質を構成する原子と活発に反応する。たとえばアルファ線を薄い紙にぶつけると紙分子と電気的に反応するため、その紙を通り抜けてアルファ線が出てくることはない。

アルファ線が空気中に放射されると、人間はアルファ粒子を空気と一緒に吸い込んでしまう。吸い込まれたアルファ粒子は肺でストップし、肺の細胞と激しく反応を起こすので肺の細胞が侵され、肺ガンを起こす確率が非常に高くなる。

○ベータ線
核を安定的に保つ陽子の数と中性子の数との比はだいたい決まっており、中性子の数が多過ぎても核は不安定になると前に述べた。中性子が多すぎると、核は安定しようとして中性子数を減らそうとする。

ここで、大変微妙なことが生じる。核の種類によっては中性子過剰気味の場合、核の中の1個の中性子が陽子に変わり、その際に電子1個と反ニュートリノと呼ばれる粒子が放出されるのだ。この現象を「中性子のベータ崩壊」という。

反ニュートリノは極めて軽く、電荷を持っていないので物質と極めて反応しにくく楽々地球を貫通する。もちろん人体の細胞とも反応しないので人間に対して無害であり、人間生活に直接関わることはない。だからこれ以降、反ニュートリノは無視する。

反ニュートリノを無視すると、中性子は電子を放出して陽子に変わってしまうことになる。核内の中性子1個が陽子に変わってしまうと、その核内では陽子が1個増え、中性子1個が減ることになる。この現象は「核のベータ崩壊」として知られている。中性子のベータ崩壊も核のベータ崩壊も中性子が陽子に変わる現象なので、一般に「ベータ崩壊」という。

物体がベータ崩壊を起こすと多数の電子が飛び出してくる。これらの電子は「ベータ線」と呼ばれる。ベータ線を形成しているのは電子だが、電子の電化はアルファ粒子のちょうど半分で極めて軽い。アルファ粒子ほど活発に物質原子と反応を起こすことはないので、物質にあたっても簡単にストップすることはないし、仮に反応を起こしても生き残り、まだ物質内を突き進む。

とはいえ電子は電荷をもっているので、細胞を形成している原子の電子と電気的に反応し、原子の電子はもぎ取られてしまう。その結果、細胞の構成が変わってしまいガン細胞になる可能性が十分にある。

○ガンマ線
ガンマ線は振動数の高い電磁波で、核から放出される。電磁波とは何かを説明するには、その前に電荷について理解しておく必要がある。電荷は電子や陽子など物質粒子の中に存在し、電荷だけを物質粒子から取り出すことはできない。電荷にはプラスとマイナスの二種類があり、ヤドカリのように物質に寄生している。

電磁波は、電荷が加速されたり減速されたりすると、その周りの空間に発せられるものである。電子は陽子などよりも極めて軽い粒子なので、簡単に加速、減速ができる。電子は電荷を有しているので、電子が加速したり減速したりすると、電子の持つ電荷から電磁波が空間に向けて放出される。

電子が加速、減速する場面には振動現象がある。折り返し地点に近づくときは減速され、離れていくときは加速されるからである。つまり、電子が振動すると、電子から電磁波が発生する。電磁波は振動数で分類することができ、一秒当たりの振動回数を振動数または周波数という。電磁波は振動数の少ない順に次のように分類されている。

ラジオ電波、マイクロウェーヴ、熱線(赤外線)、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線

電磁波は「波」であって、電荷の振動がその周りの空間に伝わっていく現象である。電磁波は物質ではなく、電子などの物質粒子からできてはいない。したがって電磁波は重さも電荷も有していないが、エネルギーを有している。

ガンマ線は物質粒子ではないので、核からガンマ線が放射されても核内の陽子数や中性子数は何の変化も受けず、別種の核に変化することはない。ただし、ガンマ線はエネルギーを持ち去るので、核からガンマ線が放射されるとその核に貯えられていたエネルギーの量は減少し、核はより安定する。核がガンマ線
を放出するプロセスは、核の「ガンマ崩壊」と呼ばれているが、核がガンマ崩壊を起こしてもその構造が変わるわけではない。

核がアルファ崩壊やベータ崩壊した直後は、まだエネルギーが高くなっている場合が多い。したがって核は不安定な状態にあるので、エネルギーをはき出して安定しようとする。この「エネルギーの吐き出し」が、ガンマ線放出となって現れるわけだ。

電磁波であるガンマ線は電荷を持っていないがエネルギーを持っているため、物質を構成している原子の電子と反応する。つまり、人体の細胞とも反応し、ガンマ線は染色体を侵すことがある。妊娠している女性の染色体が侵されると、胎児に障害が現れる場合がある。

○中性子線
水素以外のすべての原子の核には中性子がある。中性子過剰の核はベータ崩壊を起こし中性子が陽子に変わって電子(ベータ粒子)を放出するが、場合によっては中性子を直接放出することもある。また、核が分裂するとそこから中性子が飛び出す。

この中性子の粒子線を中性子線と呼ぶ。中性子は電荷を持っていないので、中性子線はガンマ線と同じく電荷を持っていない。ただし、ガンマ線とは異なり重さがある。

中性子と陽子の間には核力が作用するが、中性子のスピードが大きい場合、陽子にぶつかってもくっつかずはね飛ばすこともある。はね飛ばされた陽子は「反跳陽子」と呼ばれ、プラスの電荷を持っているので他の原子と電気的に活発に作用する。

生物の細胞には水素が含まれている。水素は1個の陽子と1個の電子から構成されているから、生物の細胞には陽子が含まれている。したがって、中性子が細胞にぶつかると陽子がはね飛ばされ反跳陽子となり、他の原子と電気的に活発に作用する。そのため細胞の構造が変わり、ガン細胞になる可能性がある。

これは中性子のスピードが大きい場合の話で、中性子のスピードが小さい場合、大量の中性子が人体に入り込むと細胞を構成している原子の核に吸収され、核はベータ崩壊を起こし電子を放出してベータ線を形成する。そのベータ線はさらに細胞を侵す。核がベータ崩壊を起こした直後にガンマ線を出す場合が多々ある。したがって、中性子線もガンや白血病を引き起こす。

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