原子力災害を招いた「三つの欠如」

昨年暮れの12月26日に「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」から中間報告が発表された。

東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会
中間報告

概要版を一読すると、「想定外」という東電や関連機関の言い分を否定し、本来想定すべき事項を想定してこなかった事実を指摘する内容になっている。

この中間報告は456名の関係者へのヒアリング等に基づくもので、今回の原子力災害に関して問題点を「事故発生後の政府諸機関の対応の問題点」「福島第一原発における事故後の対応に関する問題点」「被害の拡大を防止する対策の問題点」「事前の津波対策及びシビアアクシデント対策の不備」の四つに整理し、その上で原発事故の発生とその後に生じた問題の多くは次の「三つの欠如」が大きく影響したとしている。以下はその引用である。

① 津波によるシビアアクシデント対策の欠如
東京電力は、今回のような津波によりシビアアクシデントが発生することを想定した上で、それに対する措置を講じるということをしなかったし、規制関係機関も同様であった。今回の津波のように、確率的にその発生頻度が低いと評価された事象であっても、発生した場合には被害規模が極めて大きくなると予想されるものについては、リスク認識を新たにし、それを無視することなく、必要な対策を講じておくことが必要である。

② 複合災害という視点の欠如
原発事故が複合災害という形で発生することを想定していなかったことは、原子力発電所それ自体の安全とそれを取り巻く社会の安全の両面において、大きな問題であった。複合災害を想定した対応策の策定は、今後の原子力発電所の安全を見直す上で重要なポイントとなる。

③ 全体像を見る視点の欠如
これまでの原子力災害対策において、全体像を俯瞰する視点が希薄であったことは否めない。そこには、「想定外」の津波が襲ってきたという特異な事態だったのだから、対処しきれなかったという弁明では済まない、原子力災害対策上の大きな問題があった。

表現を変えれば「原子力災害は人災であった」と言っているのと同様であろう。この報告書には東電をはじめとする原子力事業関係者の無為無策ぶりや、災害に対する準備不足が混乱や失態を招いた状況が描かれており、改めて怒りをおぼえる。

そして問題を引き起こした三つの欠如を乗り越えるにはどうすべきかと考えると、収益の縛りを受ける株式会社たる東京電力および各地域の電力会社が原子力発電所の運営主体であることが果たして適切か、という問題に突き当たる。実際、東京電力は津波評価技術で算定された波高を超える津波の発生確率は低いと考え対策の必要性を認めていなかったが、その背景には発生確率の低いリスクに多大なコストをかけない民間事業者の論理があったと考えられる。

なお、委員会は今後も調査を続け、最終報告の公表は今年夏頃の予定という。

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