ホンダでメンタルヘルス対策を推進できる理由

俺の考え (新潮文庫)
俺の考え (新潮文庫) [文庫]

 今年1月に実施された「労働政策フォーラム『職場のメンタルヘルスを考える』」の報告書がアップされていました。当日は私も会場で聴講していて、行政、研究者、企業とそれぞれの立場から有益なお話が聞けました。コーディネーターは労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎統括研究員。

 詳しい内容については報告書を読んでいただくとして、ここでは気になったところをいくつかメモっておきます。
○メンタルヘルス対策が進まない理由
 JILPTの郡司正人主任調査員の報告によると、企業のメンタルヘルス担当者からよく出てくる話題として次のものがあるそうです。

「相談窓口を設置したり研修を実施するなど、いろいろ整備をしている。しかし、具合的に予算をとってメンタルヘルスの対策を講じた後、役員会などで、それだけのことをした分の成果をなかなか明確に示すことができない」

 メンタルヘルス対策に取り組むと、その結果として不調者が顕在化し、不調者が増えるというジレンマもあり、理解のある経営者、経営陣ばかりとは限らないようです。そもそも営利企業が社員のメンタルヘルスまでケアする必要があるのか、と考える人がいてもおかしくはないと思いますし、ケアを受ける一部の人とそうでない人との間に不公平感が生まれる可能性もあります。
 ちなみに郡司主任調査員が提示した、民間事業所に対し2010年に実施された調査の結果(「職場おけるメンタルヘルス対策に関する調査」) によると、約6割の事業所がメンタルヘルスの問題を抱えた社員が「いる」と答えていますが、不調者が現れる原因について質問した結果のトップ3は「本人の性格の問題」67.7%、「職場の人間関係」58.4%、「仕事量・負荷の増大」38.2%。本人の性格とはいったい何を指すのか、取扱いや解釈の難しいデータだと思いますが、社員のメンタルヘルス不調は職場や仕事が原因であるケースだけではないところにこの問題の難しさがあると郡司主任調査員は指摘しています。
○ホンダで全社的メンタルヘルス対策が実施できたのは?
 事例報告が行われたホンダでは2009年にメンタルヘルス対策チームを設置し、その後、事業所メンタルヘルス推進チームを設置しました。メンバー構成は人事部門、安全衛生部門、健康管理部門の三位一体で、組織を動かすカギとなる総務課長と人事課長を事務局長に、担当役員をチームリーダーに据える本気の布陣だったそうです。
 施策の詳しい内容はこちら
 ホンダで全社的なメンタルヘルス対策に本腰を入れて取り組まれた理由は、不調者の増加を放置すると全体の活力が低下するという懸念があったことに加え、根底に経営理念の存在があったそうです。
 対策を進めるにあたり、不調者以外の従業員との間で、どうバランスを取るかという問題ですが、実際に不調を訴える方は一部であっても、全従業員に不調を起こすリスクはあります。ですから、企業理念に照らし合わせて、よりよい職場環境を提供するためには、全従業員がケアを享受できる体制が望ましいのではないでしょうか。
(ホンダ 人事部安全衛生管理センター全社メンタルヘルス推進チーム 小林由佳)
 ホンダの経営理念とは自立、平等、信頼からなる「人間尊重」と、買う喜び、売る喜び、創る喜びの「三つの喜び」です。つまり、人間尊重の理念に照らし合わせれば、メンタルヘルス対策を充実させるのは当然、という考え方になるわけです。
 裏返して見ると、メンタルヘルス対策への本気度は、その会社のあり方や経営者の従業員に対する考え方が反映するもののように思えます。

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