「すき家」は閉店の連鎖を止められるか?

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閉店理由の説明を変えたすき家

 今回は先日の記事の詳細版。

 連鎖的な閉店がはじまった当初と現在では、すき家を経営するゼンショーの説明は大きく変化している。3月24日更新の「ねとらぼ」の取材記事ではこう書かれている。

「ゼンショー広報部によると、一時的な閉店はリニューアルにともなう改装作業が基本で、人員不足はまったく別問題と考えているとのこと。」
「すき家」相次ぐ閉店は「牛すき鍋定食導入で人員不足」のせい? 運営元のゼンショー「考えられない」

 だが1か月近くたった4月17日に同社は『「すき家」の職場環境改善に向けた施策について』というリリースを発表し、人手不足によって最大123店舗の一時休業や時間帯休業が発生したと認め「店舗の労働環境改善を経営の最重要課題に設定しました」と述べた。

 最初の説明はなんだったのか、という問題はさておき、この1か月弱の間に同社の方針は大きく転換されたようである。しかしそれでもなお、ゼンショーの先行きは労務面と財務面から非常に厳しいと思われる。

アルバイトの労働強化に偏った効率化

 日経ビジネス2010年9月20日号の特集「外食日本一 ゼンショー」によると、外食産業のなかでゼンショーの労働生産性はずば抜けており、その理由はパート・アルバイトの戦力化にあると同誌は指摘している。

<社員とパートの比率は吉野家が1対4であるのに対し、ゼンショーは1対7。(中略)つまりパート・アルバイトを戦力化し、1人当たりの力を最大限に引き出しているところに「ゼンショー生産性革命」の神髄はある。>

 パート・アルバイトの戦力化を可能にしているのが人の細かい動作まで指示し、徹底して無駄を排除する店舗オペレーションである。「ゼンショーグループ憲章」には立ち居振る舞いが事細かに定められており「商談は30分」「社員は群れてはいけない」「歩く時は1秒に2歩以上」等々の記述があるそうだ。そして効率運営の象徴が、店舗の一人勤務を指す「ワンオペ」である。

<深夜のシフトが始まる午後10時頃から郊外など一部の店舗でワンオペが始まり、翌朝9時頃まで、孤独な作業が続く。たった1人で、調理も接客も、清掃もすべてを行わねばならない。本社が定めた売り上げの最低ラインを上回らなければ、ワンオペは実施される。マニュアルを順守すれば、実行可能というわけだ。>

 しかし、すき家は他の牛丼チェーン店と比べメニュー数が多く、自動券売機の導入もなされていない。セブンイレブンはドミナント戦略によって製造、配送、販売の効率化を達成している、といったビジネスシステム全体として効率化が進められている様子は特集記事からはあまりうかがえず、すき家の効率化は従業員の労働強化に偏った感がある。

経営の責任をアルバイトに押し付ける「労時売上」

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一方、「売り上げの最低ライン」を管理する手法が労時売上で、賃金不払いでゼンショーに裁判を起こした従業員は次のように説明している。

<労時売上とは、労働時間1時間当たりの売上のことです。平均で1時間あたり5千円の売り上げがない場合は、従業員を1人しか使ってはいけない、ということになっています。>
続「すき家」残業代未払い事件 現役店員が明かす従業員搾取の手口

 しかしその日の売上が実際にどうなるかは、その日にならないとわからない。ところが設定された労時売上が達成できないと、勤務時間の数字が勝手に書き換えられるという。

<例えば、昼帯(9時~14時)の勤務時間を後から2時間減らしたい場合は、勤務した2人のうち1人が店長(スウィングマネージャー)なら、ブロックマネージャーが店長の時間を2時間削り、9:00~12:00などと書き換えます。店長は管理職なので残業代はつかない、という会社の解釈により、店長の勤務時間を優先的に削るわけです>

 この記事は2008年に書かれたもので現在もこうした慣行が行われているかは不明だが、ツイッターで「労時 すき家」などで検索すると上記のスクリーンショットの通り、最近も労時売上で現場は厳しく管理されていることがうかがえる。

 一般に、1人の従業員が1時間にいくら稼ぐかは「人時売上高」と呼ばれ、飲食業の重要な指標である。ただし、単に少なすぎる人数で店を回せば人時売上高は改善する一方、サービス水準は落ち長期的に客は離れる。大切なことは売上高の正確な予測を行い、それに基づいて適正な労働時間を確保することである。また新人が多く訓練が必要な局面では当然、人時売上高は悪化するが、それは将来への投資として必要なものである。

(参考)
人時売上高は5,000円が合格ライン – 繁盛の黄金律 ?

 しかし、すき家では労時売上を店舗運営の指標にして適正なコントロールをはかるのではなく、単純に人件費を一定以下に抑えるための基準として使っているようである。

 飲食チェーン店における売上高は主に立地と広告宣伝に左右され、お店の従業員にやれることはよい接客をしてリピーターを増やすことぐらいである。つまり、売上は経営が責任を負うべきものであり、店舗への適正な人数の従業員配置も同様だろう。だが、すき家ではその責任を現場のパート・アルバイトに転嫁してきたといえる。

リスクは従来より警告されていたが……

 以上をまとめると、すき家の効率性はパート・アルバイトの労働強化や、本来は経営が負うべき責任をパート・アルバイトに転嫁することによってなされている。これはパートタイマーの「基幹化」と呼ばれる取り組みの典型である。

 従来、チェーンストア等でパートタイマーはその「活用」と、各々の能力を向上させる「戦力化」がはかられてきた。基幹化とはさらに一歩進め、パートタイマーの仕事を正社員の水準に近づけることを指す。

 これには「量的な基幹化」と「質的な基幹化」の二つがあり、前者はパート比率の増加を指し、後者は正社員と同等かそれ以上の仕事ができるようにすることを指す。社員とパートの比率が1対7で、契約社員が店長をつとめるすき家は量的、質的双方の観点から基幹化を推進してきた典型的な企業といえよう。

 しかし、待遇の向上をともなわない基幹化にはリスクがあると国学院大学の本田一成教授は指摘している。たとえば人材の定着率が下がったり、モラルダウンし生産性を落とす行為が発生したり、現場の有益な情報を吸い上げられなくなったり――。

 パート・アルバイトが逃散し、連鎖的な閉店が発生して1か月以上が過ぎてもなお立て直せる様子のうかがえない現在のすき家は、かねてより警告されていた以上のリスクが顕在化しているわけだ。しかも従業員との裁判に見られるように敵対的な労使関係をとってきたため、従業員全体の代表者として交渉できるような窓口もない。

 パート基幹化の徹底という成功モデルが逆回転をはじめたいま、ゼンショーの経営陣が労働環境を改善し、従来の規模で店舗営業を行うのは極めて難しいと思われる。程度の差こそあれ同じような取り組みを行ってきた企業にとって他人ごとではないだろう。すき家の連鎖的閉店は雇用関係の大きな転換点を示す事件になるのかもしれない。





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