すき家(ゼンショー)が過重労働を放置したメカニズム その2

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 (出典:「すき家」の動労環境改善に関する第三者委員会 調査報告書 アンケート集計結果

 前回はすき家の経営者、経営幹部は過重労働を認識したがそれを放置し、常態化させていたことに触れた。では、なぜ過重労働という組織の大きな問題を放置したのだろうか。

 第三者委員会は過重労働が常態化した根本的な原因として、調査報告書のなかで以下の三点を挙げている。

  1.  客観的な人手不足という状況が著しい過重労働を生じさせており、法令違反状況にまで至っていたにもかかわらず、経営幹部がその状況を捉えていなかったという経営幹部の危機意識の欠如
  2.  現場の過重労働(法令違反)を是正する仕組みの不全という企業組織上の問題
  3. すき家経営幹部に共通する意識・行動パターン

 

○上から下への責任の「押し付け」と、押し付けられた責任の「抱え込み」

 項目2.の「企業組織上の問題」ですき家の企業文化に関する指摘がある。組織文化の観点から過重労働放置のメカニズムを説明しているので、少し長いが引用しておこう。

 すき家では、「自己責任」の名の下に、上から下への責任の「押しつけ」、下による押しつけられた責任の「抱え込み」が広くみられる。
 また、各自がそれぞれの立場から正論を言うだけで具体的なアクションにつながらないという「言いっ放し・聞きっ放し」が蔓延していた。
 しかも、企業を運営していくためには各自の権限と責任を明確に定めておくことが必要であるが、Z社では、組織規程・業務分掌規程が整備されていなかった。
 このため、例えば、営業部門では、「現場の工夫と頑張りで解決するしかない」という「問題の抱え込み」と「ファイヤー・ファイティング」に代表されるその場しのぎの対応が繰り返されていたし、人事労務部門も過重労働問題への対応について営業部(現場)に指摘・指示をするにとどまり、人事労務の専門家として、具体的な改善策を立案し、その実行を強く迫るといった対応を取ることはなかった。

 なお、ファイヤー・ファイティングとはシフト調整ができず対応不能に陥っている現場に人を投入し、何とか回す緊急対応のことを指す。

 経営陣は無理な目標を押しつけ、現場はその責任を抱え込む。そのため、目先の問題の解決は「現場の工夫と頑張り」というその場しのぎに依存する一方、権限と責任が明確でないこともあり、全社的な問題には誰も手をつけないし、そんな責任を背負うリスクはとらない。

 見方を変えれば、「外食日本一」にも関わらずせいぜい店長やエリアマネージャークラスの視野でしか動かない社員しかおらず、全社を俯瞰して構造的な問題に着手できる人材や組織的な仕組みが機能しない状況にすき家は陥っていたといえる。

○成功体験による過重労働の規範化

 また、3.の「すき家経営幹部に共通する意識・行動パターン」は5点にまとめられており、以下はその要約である。

① コンプライアンス意識の欠如
 経営幹部は「24時間、365日営業」を金科玉条にした思考停止に陥り、法令を軽視した結果、重大リスクを招くことになった。
② 顧客満足にのみとらわれた思考・行動パターン
 経営幹部は顧客を最優先のステークホルダーとして意識していたが、従業員が企業経営にとって不可欠のステークホルダーであるという意識はなかった。
③ 自己の成功体験にとわれた思考・行動パターン
 経営幹部は強い使命感と超人的な長時間労働ですき家を日本一にしたという成功体験を共有しており、部下にもそれを求め、従業員の人としての生活を尊重する観点が欠けていた。
④ 自社と社会の変化に対応する「全社的リスクマネジメント」の欠如
 経営幹部は人員不足による現場の対応不能状態への危機意識はもっていたが、この問題を重要なレピュテーションリスクとして正しく理解し抜本的対応を行う者はいなかった。
⑤ 数値に基づく収益追求と精神論に基づく労働力投入
 すき家では「収益の局面」では客観的な数値を積極的に活用するものの、「労働力の局面」では客観的数値に基づく合理的思考は姿を消し、精神論が幅をきかせていた。

 興味深いのは③で、要は「超人的な長時間労働」という名の過重労働によって成功した会社ゆえ、それが組織の規範になっていたというわけだ。この点については、小川CEOも日経新聞のインタビューで次のように語っている。

――社内での影響力が大きい小川社長でも問題を解決できなかった理由は。

 やっぱりこれまで成功してきたことが大きい。すき家1号店を出した時、競合は300店近く出していた。どんなに優れた経営者でも、業界内の順位を変えるのは難しい。だが、我々のチームはそれをやってのけた。信念を持って働く優秀な社員が多数精鋭でいたからだ。先輩の社員はその成功体験から、後輩に同じ働き方を求める。

 トップが変えようと言っても、社員の意識は変わらなかった。
 (2014/9/2 日経新聞 ゼンショー社長激白 「労働問題、解決できず悔しい」 有料会員限定

 成功体験が組織を蝕む皮肉な状況に陥っていたわけだ。

 以上が第三者委員会報告書の分析で主に組織文化面から考察がなされているが、報告書が触れていないところにも過重労働を放置した大きな要因があったと考えられる。それはすき家の収益構造とゼンショーHDの成長戦略である。

 またしても長くなったので、こちらはまたそのうち。

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