疲労の原因と回復の仕組みはどうなっているのか?

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 バス運転手の過労が原因で大事故が発生したのは記憶に新しいところで、疲労のコントロールは個人の健康にとどまらずさまざまな事故や社会的な損失につながりかねない大きな問題です。ところが2004年に文科省の疲労研究班が実施した調査によると疲労感を自覚している人の割合は56%と半数を超え、さらに全体の39%が半年以上も疲労感が続いていました。日本では疲労に悩まされている人が非常に多いようです。
 個人的にもおっさん化の進行で疲労からの回復が以前より遅くなり、疲労に関するよい本はないかと手に取ったのが『すべての疲労は脳が原因 』(梶本修身 集英社新書)。著者は大阪市立大学院の疲労医学講座特任教授で、産官学連携「疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト」統括責任者です。
 最新の知見がわかりやすく整理された本だったので、以下にポイントをまとめておきます。

○疲労の根本的な原因は何か?
 健康な人における疲労とは「パフォーマンス(作業効率)の低下減少」と定義されており、具体的には思考力の低下や動作が緩慢になる、行動の量が減少するといった変化を起こし、本来の能力を発揮できない状態を指す。
 医学的に疲労は痛み、発熱と並んで人間の生体アラームと考えられている。つまり、このまま運動や行動を続ければ体に害があるという警報であり、生物が体の状態や機能を一定に保とうとする「ホメオスタシス(恒常性)」の一つである。
 疲労はエネルギーの枯渇で生じると理解されがちだが、実際には細胞への「酸化ストレス」が大きく関わっている。酸化ストレスは体内で「活性酸素」が過剰に発生することで引き起こされる有害な作用である。活性酸素とは、「呼吸で取り入れた酸素が体内で変化して、ほかの物質を酸化させる力が強くなった酸素の総称」である。
 酸化ストレスを受けた細胞は本来の機能を維持できなくなり、疲労が生じる。

○運動で疲労を感じているのは筋肉ではない!?
 実験によると激しい運動時に起こる疲れの多くは酷使した筋肉ではなく、主に「脳の自律神経の中枢」と呼ばれる視床下部や前帯状回の疲労に起因している。
 自律神経は呼吸や心拍数、血液循環など生体機能を調整しており、24時間働き続けている。激しい運動中は身体にかかる負荷が刻々と変化し、自律神経の中枢もフル回転で心拍や呼吸、体温を調整しなければならず負荷が増大する。この自律神経の中枢の疲労が運動疲労の正体である。
 脳の自律神経の中枢での処理が増加すると、脳の細胞で活性酸素が発生し、酸化ストレスの状態にさらされて本来の機能が果たせたくなる。脳の神経細胞が活性酸素で酸化されると細胞から老廃物の一種が排泄され、それがシグナルとなって「疲労因子FF(ファーティグ・ファクター)と呼ばれるタンパク質が血液中に増加する。なお、ファティーグとは疲労の意味である。
 そして活性酸素が細胞を攻撃して疲労因子FFが増加したという情報が大脳の眼窩前頭野に伝わると、疲労感が表れる。
○疲労を生じさせる物質、回復させる物質
 疲労因子FFが増加し疲労を感じると、ダメージを受けた細胞で疲労回復のプロセスがはじまる。具体的には疲労因子FFに対抗するため、「疲労回復因子FR(ファティーグ・リカバリー・ファクター)というタンパク質が出現する。
 疲労回復因子FRは疲労因子FFに対し化学反応を起こし、その力を抑制するように働く。ただし、疲労回復因子FRの反応性には個人差があり、疲れやすいか、疲れにくいかの差に現れている。加齢によっても疲労回復因子FRの反応性は低下する。
 疲労回復因子FRの反応性を高めて脳の疲労を改善するためには睡眠が非常に重要である。食品では鶏の胸肉などに含まれるイミダペプチドに抗疲労作用があるとのエビデンスが得られている。
 本書には上記で挙げたポイントが詳しく解説されているのをはじめ、睡眠が疲労回復に及ぼす大きな影響や、疲労回復のために効果がある食品や居住空間について研究結果に基づき触れられています。
 乳酸が疲労物質との説が最近の研究で否定されたように、こうした本は何らかの新発見で内容が覆されてしまう場合があることや、実験結果を実生活に一般化した解説が必ずしも適切になるとは限らないことがあるのを頭に置いておく必要はありますが、疲労のメカニズムや疲労回復に関する最近の知見を知るのによい本だと思います。とりあえず、栄養ドリンクはやめておこう。

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