「ブラック企業」との批判を受けるようになったファーストリテイリングの柳井正会長がこの問題について日経ビジネスでインタビューに答え、話題を呼んでいます。同記事によれば、「ファーストリテイリングでは、新卒社員の約5割が入社3年以内に辞めています」。
「甘やかして、世界で勝てるのか」ファーストリテイリング・柳井正会長が若手教育について語る
ブラック企業の定義はけっこうあいまいで、サービス残業などの違法行為が蔓延している職場を指すこともあれば、業務が非常にハードな職場を指している場合もあったりします。前者は論外ですが、後者が話題になるとき、最近よく想起するのがパートの「基幹化」という概念です。
「戦力化」がパート全体の底上げを図るような意味合いなのに対し、「基幹化」はパートの仕事を社員の仕事に近付けること、もしくはパートに正社員以上の仕事をしてもらうことを指します。たとえば、20年前に私がアルバイトしていた頃と現在のファミレスでは明らかに少ない人数で多くの業務をパートがこなしていますし、スーパーの鮮魚売り場で見事に魚を捌く技術の持ち主がパートだったりします。
こうしたパートの基幹化によってスーパーなどの業種は生産性の向上を享受してきました。企業にパートを雇用する目的についてアンケートをとると「人件費の削減」といった回答がトップにきますが、それは単純な低賃金というだけでなく、仕事の質的な向上も伴っているわけで、企業からしてみれば二重に美味しい構図です。
しかし企業の競争力を担う仕事を遂行するようになったにも関わらず、パートの待遇が引き上げられていないのは周知の通りで、私がアルバイトしていた20年前とさほど時給は変わっていません。パートから見れば仕事の内容と責任だけ引き上げられて、その分の対価は得られていない状況です。
当然、頑張っても報われない状況が続けばパートの不満は募り、これ以上の基幹化は無理になるだけでなく、離職率があがったり仕事の手を抜いたり不満を寄せるパートへの対応に正社員が振り回されたり等々、さまざまな形でリスクが顕在化する可能性があります。
要は仕事の高度化と報酬に大きな段差ができると、いろんな形で従業員が組織から離反するリスクが生じるというわけです。企業は基幹化を競争の激化を理由に正当化してきましたが、これからもそれが受け入いれられるかどうかは疑問であり、業種によっては基幹化されたパートが職場の大多数を占め、質量ともに競争力の源泉になっていたりしますから、これは非常に大きな問題です。
で、ファーストリテイリングに話を戻すと、パートではなく新入社員の話ではありますが、これだけ新入社員の離職率が高くなった背景には仕事の高度化を社員に押し付けすぎているのではないかなと。柳井会長自身もこんな発言をしています。
これまで我々は、入社半年から1年で店長になるべきだという教育をしてきました。ですが店長資格が取れず、失望して辞める人はすごく多いんですよ。
たとえ店長資格を取っても、能力や経験が足りないまま現場に出れば、当然戸惑ったり、精神的に追い詰められてしまったりする。
それなのに我々は店長として何をすべきなのかという「技術」ばかり教育していた。これが一番の問題であり、失敗だと思っています。
同社のように新入社員が3年で5割も辞めるような職場は、企業として相当なリスクを抱えていることに留意しておく必要があると思います。少なくとも現場の店長やマネージャーは辞めていく社員への対応だけでもけっこうな負担になっているのではないでしょうか。
と書いたところでまた話題になりそうな記事がきました。
「ユニクロ、世界同一賃金へ」
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