「マタハラ裁判」が提示する、社員を軽易な業務に転換する際に会社が考えておくべきこと

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 先週、最高裁が初判断を下したと話題になったマタハラ裁判。そりゃ妊娠のたびに降格させられたらたまらんだろうと思っていた。しかし単純なマタハラ案件で最高裁までくるのかなと判決文(PDF)に目を通してみたところ、たかの友梨ビューティ―クリニックのような事例とは異なり、どうもマタハラの一言で斬ればいいケースではないようだった。


◎なぜ裁判にいたったのか?

 この裁判で訴えられたのは複数の医療施設を運営する広島中央保健生活協同組合で、訴えたのは同生協で副主任の地位にあった理学療法士の女性である。

 判決文から経緯を追ってみよう。この生協の理学療法士には訪問介護施設に所属して患者の自宅を訪れリハビリを行う訪問リハビリ業務と、病院内でリハビリを行う病院リハビリ業務があり、女性は訪問リハビリ業務に従事していた。

平成20年2月、妊娠を機に女性は軽易な業務への転換を請求し、より身体の負担が小さいとされる病院リハビリ業務を希望し、3月1日に異動した。

 異動後、病院側が手続上の間違いで副主任を免ずる辞令を発するのを失念していたと説明し、女性は降格に渋々同意。ただし自分のミスで降格されたと周囲に誤解されるのを避けたいという希望を受け、生協は4月2日に、3月1日付の異動と降格辞令を出した。

 女性は9月から産休と育休を取得し、翌年10月に職場復帰。復帰にあたって生協は本人の希望を聞いたうえで訪問介護施設に異動させたが、そこには女性が病院リハビリ業務に異動したあと、女性より職歴が6年短い別の職員が副主任に昇格していた。女性は副主任に再び昇格されることなく、この職員の下で勤務することになった。

 職場復帰後も副主任に再昇格できないと女性が知らされたのは、復帰にあたって希望を聞かれたときだった。女性はこれを不服として強く抗議し、裁判にいたったわけである。

◎降格によるメリットとデメリットのバランスは?

 このケースで生協は本人の希望に沿って業務の軽減と職場復帰を行い、一定の配慮はしているものの、復帰後の職場には別の職員が副主任になっているため、元の副主任という地位に復帰させなかった。

 生協側の主張は、女性の復帰先が限られており、妊娠前の職場への復帰になったが、そこにはすでに副主任として配置された理学療法士がいて女性を副主任にする必要がなかったのだから雇用機会均等法違反でも人事権の濫用でもない、というものだった。

 高裁では生協側の主張を認めたわけだが、最高裁はその判決を破棄して高裁に差し戻した。その分かれ目となったのは、副主任降格のメリットとデメリットのバランスをどうみるかのようである。

 判決文によると同生協で副主任は管理職の範囲に規定されており、毎月9500円の手当があるが、一方で「リハビリ科の主任又は副主任の管理職としての職務内容の実質が判然としない」とされている。どうも職務の内容があいまいなのである。

 というわけで、このケースでは降格によるメリットが明らかでない一方、管理職の地位と手当を失うというデメリットが大きいうえ、副主任への復帰を予定していないことの説明も十分になされていなかったとして、最高裁は差し戻しを命じた。


◎「降格」とは何か

 妊娠・出産に限らず、病気や家庭の事情などで業務負担の軽いポジションに移るケースはどんな会社でも出てくるだろう。ただ、その人が元の水準で働けるようになったとき、その間に別の後任者を配置していると、復帰後にどのような処遇をするべきかは悩ましい問題である。とくにポジションの限られる中小企業ではそうだろう。こういう場合にどう対応するべきか、企業は考えておく必要がある。

 また、この裁判で問題になっている「降格」は、いわゆる職能資格を指しているのか、仕事の内容に直接対応したものなのかがあいまいである。前者ならそもそも妊娠による軽易な業務への転換で降格させる必要がないのは当然だが、後者だと業務軽減のための降格ということで理屈はある。この辺も整理しておく必要がありそうだ。

 加えて降格をするとしても従業員の感情を非常に傷付けるので、そこには十分すぎるほどの配慮をしなければならない等々、このケースはいろいろな問題を提示しているので、産休・育休や休業、社員の軽易業務への転換などを考える際のよい事例になると思われる。

 
 参考:最高裁判例(PDF)
     hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)  「単なるマタハラ裁判じゃなくって・・・

 

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