ビジネスパーソンならBABYMETALぐらい見ておけよ、という話

  おっさん世代を相手に「いまBABYMETALがムチャクチャ面白い!」というと、そもそもBABYMETALの存在自体を知らないか、いい歳したおっさんが何アイドルに夢中になっているんだという顔をされることが多いですが、いやいや、BABYMETALを見ていないおっさんこそまずいだろ、と思います。真面目に。

 ビジネスの世界における現在の大きなキーワードはグローバル化とイノベーションであることは論を待たないと思いますが、その現代的かつ現在進行形の事例としてBABYMETALは非常にユニークな存在になっているからです。
 



◎武道館単独公演をSOLD OUT、海外フェスで6万人が熱狂

 BABYMETALは「アイドルとメタルの融合」をテーマに結成され、「カワイイメタル」で世界征服を目指すメタルダンスユニットです。メンバーはボーカルのSU-METAL、サイドダンサー(バックダンサーではない)のYUIMETAL、MOAMETALの三人。
 SU-METALは現在高校二年生、YUIMETALとMOAMETALは中学三年生と若すぎるほど若いユニットですが、今年3月には日本武道館ワンマンライブ2DAYSを行いチケットはSOLD OUT。武道館単独公演を行った女性アーティスト最年少記録を更新しました。
 BABYMETALの特徴は海外人気の高まりで、今年2月にリリースしたたファーストアルバム「BABYMETAL」が、全米ビルボード総合チャートにランクイン。この夏にはフランス、ドイツ、イギリス、アメリカ、日本をめぐる単独ワールドツアーを成功させたのに加え、7月にイギリスで開催された大型フェス『Sonisphere Festival UK』のメインステージに登場し、6万人ともいわれる観衆を熱狂させました。
 日本語でパフォーマンスする日本の女子中高生アイドルに、刺青だらけのごついヨーロッパのメタラーが熱狂する姿はまさに「WTF!(なんじゃこりゃ)」です。

◎従来のアイドルと何が違うのか?

 BABYMETALはもともと「さくら学院」という学校を模した小中学生限定アイドルグループ内の部活動「重音部」として発足しました。まだ小中学生でアイドルをやっている女の子たちがメタル好きなわけはもちろんなくて、メタルとアイドルの融合というコンセプトを仕掛けたのは、3人の所属事務所アミューズのKOBAMETAL氏でした。

 しかし「アイドル×○○○」というのはよくあるコンセプトで、過去にアイドルがラップをやったりメタルをやったりする例はありました。そうしたものとBABYMETALの違いはKOBAMETALがメタルに精通したガチのメタルキッズで、「メタルへの愛情を込めた新しいタイプのアイドルユニット」をつくろうとした点だと思われます。
 楽曲にしても、ライブ演出にしても、過去にメタルシーンを築き上げてきた先人たちへの愛情と尊敬を込めてオマージュしつつも、決して懐古主義にはならないようにアレンジし、メンバーに体現してもらおうと努めている。今までもメタル風味のアイドルソングはあったが、BABYMETALの場合は、まずベースに本格的なメタルサウンドありきのアイドルソングをイメージしている。 
 つまり、「メタル風アイドル」でお茶を濁すつまりは毛頭なく、これまでのメタルの歴史を踏まえつつ、そこに「アイドル」という新しい文脈を付け加えた。
 これはアーティストとして海外で高い評価を得た村上隆氏の話とも通底しており、それが海外で反響をよぶ要因になったのだと思われます。
 (欧米では)知的な「しかけ」や「ゲーム」を楽しむというのが、芸術に対する基本的な姿勢なのです。
 欧米で芸術作品を制作する上での不文律は、「作品を通して世界芸術史での文脈を作ること」です。ぼくの作品に高値がつけられたのは、ぼくがこれまでに作りあげた美術史における文脈が、アメリカ・ヨーロッパで浸透してきた証なのです。
 (村上隆『芸術起業論』幻冬舎)

◎面白いものは世界が勝手に見付けてくれる!

 一方BABYMETALが海外で知られるようになった最初の経路は、Youtubeでした。2010年のインディーズデビュー曲「ド・キ・ド・キ☆モーニング」のミュージックビデオがYouTubeで公開されると、メタルとアイドルの融合というイカれたコンセプトに衝撃を受け、多くのコメントとともに海外からのアクセスが殺到したのです。
 今年2月に公開した「Gimme chocolate!!」のPV再生数は1700万回を超え、コメント件数も3万件にのぼっています。
 Youtubeを見ていて面白いのはBABYMETAL自身が供給した動画だけでなく、BABYMETALのファンや注目した人たちがそれぞれ独自に動画をつくったり、海外公演で観客席から撮影された映像がアップされたり、またそれらを編集した動画を作成する人が現れたりと、BABYMETALをネタにしたコンテンツが勝手に増殖していることです。
 それらのなかにはかなりの人気を集めるものもあって、たとえばBABYMETALを見た人の反応を撮影したこの動画は1000万回近く再生されています。

 面白いものをつくれば国境を超えて見つけてくれる人がいて、コメント欄やSNSでコミュニケーションがはじまり、いつの間にかファンのコミュニティが形成される。こうした動きからはこれまでとは異なる情報の伝播やコンテンツの消費のされ方が起こっていることが見えてきます。
 それは著作権に基づいた従来のビジネスのやり方と摩擦を起こす一方で、より早く広く低コストで海外に展開できるという夢の持てる話でもあります。この新しい状況にどう適応していくかというのは、これからの面白いテーマになるはずですが、若い世代はともかく、私を含めた多くのおっさんにとってはあまり馴染みのない世界です。

 そこにいち早く土地勘をつくっておくことは、かなり重要な話だと思うのです。

 以上、長々とビジネスの側面からみたBABYMETALの面白さについて書いてきましたが、ややこしい理屈は抜きにして、彼女たちが発する熱量と全力疾走感は本当に凄いです。もしかするとネタではなく、本当に彼女たちは世界征服に成功し、世界的な人気を誇るアーティストになるかもしれない。

 今日はこれからニューヨーク公演がはじまります。 

 ※追記
   vineやinstagramにニューヨーク公演の様子がリアルタイムで続々アップされています。
   凄い時代になったなあ。

3 件のコメント

  • 素晴らしい内容の熱い文章に驚きました。
    付け加えてアイドルとメタルの融合で重要なことは、日本でいうアイドルと欧米のIDOLは既にまったく違うものになっている、BABYMETALの3人はすぐ会えない、接触はまったく0特にSU-METALは消息さえ掴めない存在になっている。神バンドも公式には誰が演奏しているのかわからなくなっている。正にIDOL(偶像)であり徹底的な差別化が行われていること。その差別化を未だに大半の国内マスコミが理解できない。
    またHeavy Metalは国内でヘビメタと呼ばれレアで蔑まれた存在と言える。
    しかし欧米ではメジャーで一般的な存在ではあるが、ここ最近は80/90年代の大ベテランが幅を利かせ新しい魅力的なムーブが起きてない。結果的に時代に取り残され衰退しているイメージがある。ここにBABYMETALが新しい魅力的なムーブを巻き起こしつつありHeavy Metalの世界では正に世界征服を達成しつつある。
    更に欧米の世界でHeavy Metalが新しい血を入れてまたメジャーな路線に躍進する期待感を抱かせるている。それをメタル後進国の日本のグループが核になって。
    クールJAPAN何てレベルの話ではないがそのレベルでしか皆さん理解できない。

  • お邪魔します。おっさんの隠れベビメタファンですが、ツイッター検索でTLを追ってみると、色々と生々しい”商魂”や”その商圏での現象”が見事に見えて来てます。その中の1つで言えば、欧米一般音楽リスナーの多くがKPOPとJPOPを混同し、見方によっては、JPOPはKPOPの亜種であるかのような表現もチラホラ見受けられます。工作とかでは無く現場として。というか皆さんご存知のはずですが、欧米のワンオクやホルモンやPerfumeやベビメタのファンは、ストレートな音楽ファンですので、AKB界隈のアイドルは完全に無視&侮蔑されています。ももクロも無視されました。そして、勿論工作風な韓流販促も既にあります。(タグがBABYMEALで、演奏は白人メインのプロのバンドで、KPOPを女性ボーカルでメタルアレンジ)半分皮肉になりますが、そういった商魂の逞しさが、もっと日本のSNSで認知されるといいなと思います。

  • 海外ですごい人気だから見てくれ! ではなく、
    海外で賛否両論を巻き起こしているから見てくれ!というのが正しい。
    海外では反応が極端に分かれているのである。
    大好き vs. 大嫌い
    革新的なメタルだ! vs. メ タルの冒涜だ!
    カワイイね♪ vs. ペドフィリアか?
    歌も踊りも演奏もスゴイ vs. 単なるギミックだろ
    BABYMETALの出現は、良くも悪くもメタル界の一大事件であったことは疑いない。
    熱心な海外ファンの様子を知るには以下のサイトを覗いてみるのがいい。
    ゴリゴリのメタルヘッドたちが、さくら学院の話題で盛り上がっていたりするから笑える。
    http://www.reddit.com/r/BABYMETAL/new/

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