DeNAがWELQなどのパクリサイトを量産した経緯をたどってみた

(画像出典:DeNAパレット

 ビジネス領域のライターである私は、ユニークなビジネスモデルを持つ業務スーパーを定点観察対象の一つにしています。趣味の料理も兼ねて実際にお店に行き、面白そうな商品を自腹で購入しては一つひとつ調理して試食し、あくまでついでに写真に撮ってネタがたまるたびにこのブログへ記事をアップしていたところ検索ランク上位に上がり、「業務スーパー」検索でやってくる訪問者が増えるようになりました。

 そんな経緯のなかで気が付いたのが、「業務スーパー」の検索上位に独自の情報や見せ方が皆無の、クソみたいなパクリサイトがたくさん来ることでした。なかでもひでえなおいと思ったのがCAFYというサイトです。自分で食べていたら絶対にお勧めしないはずの商品を「買うならコレ」と言っているし(笑)、エブリデイロープライスの業務スーパーではめったに出たことがないクーポンを案内するページまでつくってPV稼ぎしていたからです。

 他のサイトの情報パクって平然と読者をミスリードするようなクソサイトを運営しているのは誰だと思ったら、なんとベンチャーの雄、DeNAでびっくりしました。事あるごとに経営者や幹部社員がビジョナリーな内容を語り、一部上場でコンプライアンスに敏感なはずの会社がなんでこんなことしているのかな、と。

 そんな疑問を持っていたところに、WELQ問題が火を噴きました。食品のCAFYならパクってつくったミスリーディングな情報でも「これ、まずいじゃないか!」で終わるかもしれませんが、医療や健康を扱うWELQがそれをやったら健康被害を生み出しかねませんから大問題です。そもそも薬機法があるので、まともな編集者や書き手ならかなり慎重になる領域のはず。

 すでに優れた告発記事や実際の記事作成プロセスに踏み込んだ記事が出ていますが、ここではどういう経緯でこんな事業をDeNAが手掛けるようになったのか、同社が過去に公表した情報からだどってみます。

 

50億円を投じてキュレーションメディアに参入

DeNAが「iemo」を運営するiemoと「MERY」を運営するペロリの二社を買収し、キュレーションプラットフォーム事業の開始を発表したのは2014年10月1日のことです。両社の買収金額は合わせて50億円と報じられました

 プレスリリースでDeNAは次のように書いています。

 DeNAは子会社化したiemo、ペロリの2社が持つ強みを最大化する体制を整え、これからライフスタイルを軸とした他分野のキュレーションプラットフォームをスピーディーに立ち上げていきます。各プラットフォーム同士での相互総客やノウハウの共有を行い、数年後にはキュレーションプラットフォーム全体でMAU5000万人を目指します。
(DeNA キュレーションプラットフォーム事業開始に関するお知らせ
 

 当初からキュレーションメディアのノウハウを蓄積し横展開する方針だったことがわかります。なお、2014年9月時点の月間アクティブユーザー数(MAU)はiemoが150万人、MERYが1200万人。50億円を投じただけあって野心的な目標を設定しています。

 2社買収の社内的な位置づけと、「キュレーションプラットフォーム」の定義については2014年度(2015年3月期)の決算短信にこう書かれています。

 中長期で成長する構造的な強みを持つ事業を創出するべく、新たにヘルスケア及びキュレーションプラットフォーム(注)分野への取り組みを進めました。

(注)インターネット上に散在する情報を、独自の観点で目利きするキュレーターと呼ばれる人たちが、各自が興味をもつテーマについてひとつにまとめあげ、公開するサービス
(株式会社ディー・エヌ・エー 平成27年3月期決算短信)

 要は次代の成長を担う新規事業で、ここではキュレーターにプラットフォームを提供するモデルを想定していたことがうかがえます。

 

キュレーションを「2-3年後の成長ドライバー」に

 近年、DeNAはいま一つな業績が続いています。

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(出典:DeNA 業績ハイライト

 主力であるゲーム事業が伸び悩んでいるためで、同社が成長企業であろうとするならば新たな事業の創出が不可欠。買収額からしても社内でのキュレーションプラットフォーム事業への期待は大きかったと思われます。

 DeNAは2社買収発表から2か月後には早くも食の情報を扱うCAFYを立ち上げ、1年後の2015年10月末にさらに4つのキュレーションメディアをリリースしました。炎上したWELQはこのときにリリースされたサイトです。

 DeNAの事業セグメントでは、キュレーションプラットフォーム事業は「新規事業・その他」のカテゴリーに入ります。2015年度(2016年3月期)の決算で、「新規事業・その他」カテゴリーの売上収益は57億円、営業利益は47億円の赤字でした。

 ただし、この決算発表においてキュレーションプラットフォーム事業を「2-3年後の成長ドライバー」として位置づけ、次のような野心的な目標を提示しました。

 トップラインを伸ばしつつ、2016年度下期の黒字転換、2017年度中の四半期営業利益10億円以上の創出を目指す

(出典:DeNA 2015年度決算説明会資料

 

 

2016年度第3四半期に黒字化の見通しだったが…

 実際にキュレーションプラットフォーム事業はどのように推移したか。今年11月4日に発表された2016年度第二四半期決算では、目覚ましい成果が発表されました。

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(出典:DeNA 2016年度第2四半期決算説明会資料

 一方で、このときの決算説明会の質疑応答では次の質問が飛びました。

【Q19】キュレーションメディアの記事の質や信頼性についての指摘が昨今出ているかと思いますが、見解を教えてください。

【A19】様々なご意見に対しては、プラットフォーマーとして真摯に受け止めていますし、監修を受けた記事の拡充を含め、より良い運営に繋げていきたいと考えています。

(出典:DeNA 2016年度第2四半期決算説明会 質疑応答

 つまり、この時点でDeNAの経営陣は記事の質や信頼性に問題があることは認識していたわけです。しかし、「監修を受けた記事の拡充」など着手されぬまま、その不誠実極まる運営の在り方が告発され、デタラメな記事づくりの具体的なプロセスが暴かれ、ついにWELQはサイト閉鎖に追い込まれてしまいました。

 

読者の信頼性より手っ取り早い成果を志向?

 以上のように、DeNAのキュレーションプラットフォーム事業は既存事業が頭打ちななか、次代の成長ドライバーとして位置づけられ、非常に急速な成長と早期の黒字化がミッションとして課せられていました。

 そんなプレッシャーのなか、メディアとしての信頼性や評価を確立する方向ではなく、DeNAは手っ取り早く目標数値を達成するために短期間にゴミ記事を量産しGoogleの検索エンジンを騙してPVと広告費を稼ぐ方法を確立し、キュレーションメディアを次々立ち上げ横展開していったと考えられます。そこに読者や社会、公益性の視点はまったくない。

 そもそもよい記事づくりなんてまともにやったら手間暇コストがとてもかかるし成果も水物みたいなところがあるので、まっとうに急成長を目指すのならメディア事業はあまり向いていないと思いますが、そんなことはわかっていて最初からデタラメな手法で伸ばすつもりだったのか、それともまっとうにやってみたけどうまくいかなくてデタラメな手法に手を染めたのか。

 DeNAのキュレーションプラットフォーム事業に関わっている人たちの発言をたどっていくと、皆さんけっこう立派なことを言っています。

 これはiemoをDeNAに売却しそのまま同社執行役員となった村田マリ氏のツイート。(同社ウェブに掲載されている正式な肩書は執行役員 メディア統括部長 兼 Palette事業推進統括部長 兼 iemo 株式会社代表取締役 CEO 兼 株式会社Find Travel代表取締役社長。)

 こちらはキュレーション企画統括部グロースハック部の山本敏史部長の、採用サイトの記事。

 特に印象的だったのは、入社3ヶ月目。 サイトの構造を見直し、記事ごとのパフォーマンスを可視化していく中で、ある仮説が立ちました。 今ユーザーに求められているのは、記事の圧倒的なクオリティ。 記事を量産しよう、というそれまでの媒体の方針から、高いレベルで「量」と「質」を担保する方針へ、転換すべきなのではないか。 そこには、検索エンジンなどの環境変化に対応する、という目的もありましたが、滞在時間を高め、PV数を伸ばすには、クオリティを高めることが第一。 質を担保することが、本質的な集客につながっていく。
(DeNAパレット 転職者インタビュー

 どちらも素敵な発言ですが、WELQのどこに「文化」や「圧倒的なクオリティ」があったのか。実態とは大きくかけ離れています。その齟齬はどこから生じたのか。最初から嘘つきだったのか、それとも急速な成長を求められる中で変節していかざるを得なかったのか。

 DeNAはWELQの記事非公開化とともに「キュレーションプラットフォームの運営にかかる社内体制強化のため、代表取締役社長兼CEOの守安を長とする管理委員会を直ちに設置します」と発表しているので、このあたりの経緯も解明していただけたらと思いますが、あまり期待はできないだろうなあ。これだけ問題点を指摘されても、WELQ以外はまだそのまま公開しているぐらいだから。

 

(2016.12.1追記)

12月1日、DeNAの守安社長が「私自身、モラルに反していないという考えを持つことができませんでした」と謝罪し、他の9つのキュレーションメディアの公開も停止しました。ただし、MERYは残しています。

 DeNA 代表取締役社長兼CEO 守安功からの一連の事態に対するお詫びとご説明

 

 

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