「自殺=悪」とすれば自殺は減るという考えは、間抜けの一言

仕事をさぼってツイッターのTLを眺めていたら「自殺した奴を保護するな。「自殺=悪」とすれば、自殺は減る。」というエントリーが流れてきました。

ざっと記事を見たところ、この人は釣りでやってるかなと思いましたが、はてブの数やコメントの多さや、そこで語られていることのずれっぷりを見ると放置するのもいかがなもんかという気がするので、ちょっと自殺問題について触れておきます。

そもそも、人はなぜ自殺するのか。自殺予防に長年関わってきた精神科医の高橋祥友氏は著書『自殺予防』(岩波新書)で次のように述べています。

自殺の危険が高まっている人は、客観的に見てもきわめて困難な状況に置かれているのはたしかなのだが、同時に「生か死か」「白か黒か」という二者択一的な思考法に囚われきってしまっている。

そして、その背後にはほとんどの場合、うつ病をはじめとする心の病が潜んでいる。その結果として、自分に残された選択肢は「自殺しかない」と確信する状態に追い込まれてしまっている。その意味で、自殺は、自由意志に基づいて選択された死などではけっしてなく、いわば「強制された死」であるというのが私の実感である。

WHOの多国間共同調査によると、1万5629件の自殺に関して心理学的部検を実施したところ、約95%の自殺者は最期の行動に及ぶ前に何らかの心の病に該当する状態でした。うつ病と薬物乱用だけでも約50%を占めています。(データは前掲書の105頁)

つまり、自殺する人はかなり複雑で異常な心理状態に陥っているのであって、そもそも自殺を善悪で判断するような状態にない。したがって「自殺=悪」とすれば自殺は減るという考えは、間抜けの一言です。しかも、自殺によって最も心に傷を追う近親者のケアを考えれば、有害でしかありません。

つい最近、うつ病で長期休職した方のお話を聞く機会がありました。彼がまだ自分がうつ病だとわかる前、気がつくと電車のホームでふらっと飛び込みそうになったり、会社にいると屋上から飛び降りる想念にずっとかられたそうです。そういう時は「この苦しい状況から逃れるには死ぬしかない」と、極端な考えばかり頭に思い浮かぶのだと言っていました。

そこでなんとか自殺せずに持ちこたえられたのは、家族の存在と運良く会社がメンタルヘルスに力を入れていて、比較的早くうつ病との診断と治療を受けられたからでした。自殺予防における周囲のサポートや心の病の治療の重要性がよくわかるエピソードです。

ああ、仕事終わってないのにこんなところで時間を食ってしまった。それにしても、あまり知らないことならちょっと調べてからものを言えばいいのになあ、と思う次第であります。

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